計算書類から黄色信号をキャッチする

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1.はじめに
事業をしていくと、継続的に末永く特定の人と仕事をしていきたいと思うものです。
そのようなパートナーがどれだけいるのかによって収入の目処が立ちますし、
ともすれば事業の成功か失敗も決まります。
ですが、長い月日を経ていくうちに事情が変わり、
うまくは行かなくなる場合があります。
例えば納入する商品や支払が遅れるような場合です。
一時的な遅れであれば問題ないのですが、それが恒常的になってくると問題です。
得意先である相手方の支払の遅れが常態化しているような場合は、
大抵は資金繰りがうまく行っていないのでしょう。
これが最悪の形となって現れてくるのが倒産です。
このような取引先の危険な兆候をどのように見分ければ良いのでしょうか?
ここでは会計の書類から現れる黄色サインについて見ていきたいと思います。

2.損益計算書と貸借対照表
会計の書類として代表的なものは、
損益計算書(PL)や貸借対照表(BS)があります。
他にはキャッシュフロー計算書がありますが、
代表的なものは先の損益計算書と貸借対照表の2つですので、
ここではこの2つについて見ていきます。

3.損益計算書とは
損益計算書は会社の収益を数値化したものです。
具体的に言うと「会社は儲かったのか」が一目でわかるようになっています。
まずは損益計算書の一番下の数字を見て下さい。
ここが+であれば利益が出ていて-であれば赤字ということになります。
次にその会社がどこで儲かったのかを見ていきます。
本業で儲けが出ている場合は売上総利益等の母体が大きくなります。
逆に本業で利益が出ていないのに、利益が出ている場合はどうなのか?
こちらの方が気になるところです。
例えば本業でない何かで収益が出ている場合は、経常利益の部分が大きくなります。
営業利益も経常利益も出ていないのに利益が出ている場合は、
特別利益の項目をチェックして下さい。
不動産を売るなど特別なことをして収益を出している場合には、
ここが膨れあがります。
一般に本業で利益が出ていないのに黒字を出してる場合は、
この部分で数値に変化が現れます。
利益を出しているとしてどこで利益を出しているのか、
可能であれば過去数年分の資料を揃えて分析してみるのもいいでしょう。

4.貸借対照表とは
次に、貸借対照表について見ていきます。
貸借対照表は会社の資産と負債等が項目別に割り振られています。
上部が金銭等の流動資産(負債)であり、
下の方に行くほど動かしにくい固定的な資産(負債)になります。
細かく書いていくと、それだけで一冊の本になるのですが、
注目したいところは、流動資産がどれだけあるのかということです。
ここの数値が高いということは現金が多いということですから、
支払が容易ということになります。
いくら資産が多くても流動資産が少なくて固定資産が多い場合は、
現金化しにくいものを多く保有していることですから、
支払はそれだけ遅くなることを意味します。
また在庫が多い場合は棚卸し資産の所に数値として表れます。
棚卸し資産は資産ですが、これから販売して現金化するものであり、
商品によっては現金化に時間がかかるものです。
このように資産が多いと思っても現金が多いのか、
固定資産が多いのかによって、その取引先の資産状況は大きく変わってきます。
単に資産の欄の数字を眺めるのではなく、
この辺りのポイントを踏まえて計算書類を見ていきたいところです。

5.正確な数値はどちらの書類に現れる?
なお一般的には、貸借対照表は見にくくて
損益計算書は見やすいものと言われています。
確かに損益計算書の方が理解もしやすいでしょう。
ただ損益計算書の方が貸借対照表よりも、
ごまかしがききやすいのも注意すべき所です。
単年度だけで成り立つ損益計算書より
蓄積された数値を記載した貸借対照表の方がより正確な数値を表しているのです。
その点を意識して計算書類を見ていって下さい。

6.終わりに
ここまで損益計算書と貸借対照表について見てきましたが、
これらの書類は一般には公開されていません。
法務局に行って履歴事項全部証明書を取得しても数値の把握は出来ません。
ではどうすれば相手方の計算書類を見られるかですが、
ある程度継続的な契約となるような場合には
契約条項に計算書類を閲覧謄写ができるという項目を盛り込み、
顧問税理士に分析してもらうのも一つかと思います。
大きな出来事は、よほどのことでない限り、前段階で数値に異常が現れます。
生きた数字を捉えるのは大変ですが、この稿がリスク回避に繋がれば幸いです。

プライバシーと信用の狭間にて

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1.はじめに
人には他人に知って欲しい事柄と、その逆に知って欲しくない事柄があります。
自分の背負っている借金、専門家に依頼した債務整理、
手続選択の結果として選んだ破産などは、
最も知られたくないことの一つだと思います。
それでは、このような借金や債務整理などを
他人に知られずに行うことは可能なのでしょうか?
また破産したということは、どこかに記録として残るものなのでしょうか?
ここでは、段階を追って見ていきます。

2.専門家に依頼する前
まず、債務整理を専門家に依頼する前の段階から見ていきます。
消費者金融などの金融機関で借金をしても、
通常通りに支払っていけば誰にも知られずに処理されていきます。
ところが、支払に行き詰まり出すと金融機関から督促の電話や、
時には訪問を受けたりします。
金融機関と言っても個人名で電話がかかってくるので
最初はわからないかもしれませんが、そのうち何度もかかってくるようになり、
家族に知れ渡ってしまうかもしれません。
金融業者の訪問に際しても社名を名乗ることはないでしょうが、
対応したのがご自身以外の家族の場合は、
借金があるとバレてしまう可能性があるでしょう。
この時点では、信用情報センターには借入がある旨は記載されるものの、
長期延滞などでない限りは事故情報は載りません。

3.専門家に依頼後
その後、債務整理を専門家に依頼したとします。
債務整理を弁護士や司法書士に依頼すると、
その窓口は本人から専門家に移ります。
金融機関からの郵便物や連絡は専門家の方に行くことになります。
この時点では、家族に相談などをしていない限り、
他人に知れ渡ることはありません。
専門家にも守秘義務がありますから、
容易に依頼者以外の他人には依頼内容を伝えることはありません。
ただし、会社からお金を借りるなどしていて債務整理の過程で
会社にも専門家から通知が行った場合は、
会社にも負債のことが知れてしまいます。
もっとも会社の事業規模にもよるでしょうが、社内全部に広まるのではなく、
一部の者のみが把握している形になるでしょう。
専門家に債務整理を依頼した時点で、
信用情報センターには債務整理中と表示されます。
信用情報センターにある情報は誰でも見られるものではありませんが、
金融機関は融資の審査の際などに利用します。
キャッシングなどは家族に内緒にしているものの
家庭ではマイホームを組む話が進んでいて、
融資の申込みを銀行でした場合は断られますし、
これを機に家族にもわかってしまうかもしれません。

4.破産の場合
債務整理の方針をどうするのか、その方針が決まったとします。
債務整理の方法は色々ありますが、
任意整理の場合であれば、官報などの国の発行する新聞に載ることもありません。
他方、民事再生や破産であれば、官報にご自身の名前が掲載されます。
とはいえ、官報に掲載されると言っても
一般の方がこの新聞を目にすることはほとんどありません。
以前に国家試験の合格者が自分の名前を探すのに官報を入手していましたが、
何か特別な目的でもない限り、手にすることはない新聞でしょう。
とはいうものの、一定の割合でこの「超個人情報」の入手に務めている人もいます。
例えば金融業者は融資の選別に大事な情報となりますから、
この情報を常に収集しています。
またいわゆるヤミ金業者もDMの送る所を、
この官報から入手していると言われています。
ですから、破産すると一時的にこのような業者から
DMが送られてくる可能性があります。
他方で、破産した旨は戸籍や住民票には記載されません。
市役所の発行する「身分証明書」という書類には、
残念ながら破産した旨の記載はされますが、
この書類を手にとって何かすることはそう多くはないでしょう。
要約すると調べれば破産の経歴は出てきますが、
そう簡単に目にすることはありません。
なお、信用情報センターの履歴には破産した旨の記載は行われます。
この記録は数年間は消えません。

5.終わりに
債務整理という場面では、
プライバシーという権利と真っ向から対立する所があります。
完全に誰にも知られずに債務整理を終わらせるのは、
ご自身の環境によると思いますが、
そう簡単には知られないのが実情と言えるでしょう。

債権回収に王道はあるのか?

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1.はじめに
倒産などの話を聞いていると、
必ず出てくる質問の一つに
「確実に売掛金を回収できる方法を教えて下さい」というのがあります。
事業を経営する者としては、売掛金の回収は大切な仕事です。
ですが、経営に黄色信号が点灯した所からの回収に王道はなく、
その場に即した回収方法しかないように思えます。
もし絶対無敵の回収方法があるのなら、
プロである金融機関がそれを実践しているでしょうし、
貸倒れという言葉は存在しないでしょう。
とはいうものの、売掛金を回収できないと
自身の経営状態に影を落とすのも事実です。
体力のある会社であればいいのですが、
他に払うものがあったりすると回収できない金額によっては
共倒れになる可能性があります。
ここでは、考えられる回収方法を見ていくとします。

2.期日管理を徹底する
まず、基本的なことですが請求書を作成して、
相手に金額を請求するときは支払の期日を決めて下さい。
「そんなこと・・・」と思われるかもしれません。
ところが、期日の管理というものは意外とできないものですし、
大切なことなのです。
期日を設定されると設定された方としては、その日にちを意識するものです。
それを最初からスルーしてしまう人はビジネスパーソンとしては失格でしょう。
ですので、その期日内に支払がない場合には、さっそく支払の依頼を行います。
この時間的頻度が短くなればなるほど回収率は高くなります。
もしこの期日がない場合は、
ある場合に比べてどうしても時間がかかる傾向にあります。

3.準消費貸借とは
次に売掛金等が特定の所にたまっている場合があります。
先ほどの期日管理を徹底するのも一つの方法ですが、
それだけで回収するのは難しい場合もあります。
このような場合は、準消費貸借にする方法があります。
準消費貸借とは、金銭の貸し借り以外の事情で債権債務が発生している場合に
金銭の貸し借りがあったと契約形態を変えることをいいます。
個々の売掛金債権を別々に管理するのは思った以上に大変です。
これを金銭の貸し借りがあったとする準消費貸借にすると、
その管理負担も軽くなりますし、時効の面でも大きなメリットを受けます。


4.公正証書の使い方
また直接的なアプローチになりますが、契約書を公正証書にすることも効果的です。
金銭等の貸し借りについての契約を公正証書にすると、
もし相手方が不履行をした場合は裁判にかけることなく、
即時に強制執行が可能です。
もし通常の契約で債権を法的に回収しようとすると裁判を起こして判決を取り、
それから強制執行にかけるという長い手順が必要となります。
公正証書は判決という時間的なロスを大幅に圧縮できるので、
回収という面から言うと効果は大きいでしょう。
ただ、執行が可能なのは金銭消費貸借に限定されるので、
売買契約や請負契約を公正証書にしても債権の即執行には意味がありません。
先ほど紹介した準消費貸借を公正証書にするのは、その意味でも実益は大きいです。

5.担保を取る
他には担保をとる方法があります。
担保としては保証人のような人的担保と不動産等に設定する物的担保があります。
順に概略を見ていきます。

5-1 保証人を立てる
債権回収の代表格となるのが保証人を立てる方法です。
債務者の支払が厳しい場合には保証人から回収をするのです。
保証人には通常の保証人と連帯保証人がありますが、
債権回収の観点でいうと連帯保証人にするべきです。
ただ事業資金で保証人を立てる場合は、
公正証書にするなど一定の制約があります。
また保証契約を結ぶ場合は必ず書面でしなければいけません。

5-2 不動産に担保をつける
次に物的担保です。抵当権が代表格ですが、
価値の高い不動産には、
既に金融機関の先順位担保が付いていることがほとんどですから、
後順位で抵当権をつけるメリットはあまりないように思います。
債務者が所有する動産や債権に担保を設定して登記をする方法があります。
この場合、不動産ほど確実な資料があるわけではありませんから、
必ず帳簿などで現存するのかを確認した上で担保を設定するようにしましょう。


6.終わりに
誰しも悪意を持って払わないのではありません。
払えない人のほとんどが払いたいけれど払えないのです。
そこから回収するのは並大抵のことではありませんし、
時に情が入る場合もあります。
しかし、客観的に自身の置かれた現状を考えて、
「いま自分がしなければいけない大切なことは?」を考えて下さい。
厳しい局面もありますが、生きるためには避けて通れない道のりなのです。

郵便物が届きません(破産した場合)

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1.はじめに
携帯電話の請求書、
ポイントカードを作った店からのダイレクトメール、
郵便ポストを開けると色んな郵便物が入っています。
その他にも正月であれば年賀状、
夏の梅雨明けシーズンなら暑中見舞いが届くこともあります。
これらはご存じの通り、
郵便物を出すと誰の介入も受けずに宛先の人に届くことになっています。
郵便法でそう書いてあるのかは知りませんが、
憲法の定める通信の秘密などが具体化したものと、自分は理解しています。
ところが、この郵便物が届かなくなる場合があります。
例えば、成年被後見人になった場合は、
後見人が成年被後見人の状況を把握するために、
郵便物の転送届を出している場合などです。
それでは破産した場合にも、このような制約を受けるのでしょうか?
ここでは破産手続と郵便物の関係について見ていきます。


2.債務整理を依頼した場合
まず債務整理を依頼する前であれば、郵便物は問題なく宛先の所に届きます
もちろん転居など何らかの事情のないのが前提です。
次に債務整理を専門家に依頼した段階ですが、
これも問題なく依頼者のところに郵便物が届きます
ただ債務整理を専門家に依頼した場合は、
各債権者は書類を弁護士や司法書士といった専門家に送付することになります。
依頼者と委任契約を結んで債務の整理を依頼したわけですから、
言い換えれば窓口が変わることになります。
それでも債権者から依頼者に郵便物が届くのであれば、
ひょっとしたら弁護士等への伝え漏れがあったのかもしれません
特に破産手続に進む方向なのに、
伝えてない債権者がいる場合は、
その債権者の債務だけ免責されないなど不都合が生じるので、
必ず専門家に伝えて下さい。

3-1 破産した場合(同時廃止の場合)
それでは債務整理の方針が破産になった場合は、
破産者宛の郵便物はどのような扱いになるのでしょうか?
ここでは大きく2つに分かれます。
まず破産申立をして破産手続開始決定が出るのと同時に同時廃止になった場合です。
同時廃止とは「手続を止める」という意味で、
その決定が出るのと同時に破産手続は終了します。
この場合は、破産した人に郵便物は問題なく届きます
よく聞く話では、破産手続開始決定が出るなどのタイミングで
ヤミ金からDMがよく届きます。
官報に破産した人の名前が載るので、
その情報をキャッチしてDMを送りつけてくるのです。
これに手を出すと地獄が待っているので、そのまま破ってポイしましょう。

3-2 破産した場合(管財事件の場合)
次に破産手続開始決定と同時に管財人が選任された場合です。
管財人が選任されるのは不動産や高額な財産がある場合や、
破産した者が法人や自営業者などの場合です。
この場合は、郵便物が管財人の元に届くようになり、
破産した人のところには全ての郵便物が届かなくなります
携帯電話や電気料金の請求書から、
年賀状や友人知人からの手紙を含めて全て管財人の元に届きます。
これは何故かと言うと、管財人は破産した人の概要、
もっと具体的に言うと財産や債務の状況を把握するためです
もちろん破産申立の際には色々な書類が求められ、
そこには財産の状況を事細かに記載しなければなりません。
ですが、残念なことに一定の割合で財産隠しがあるのも事実です。
そのために管財人が子細を調べるために郵便物の転送が行われているのです。

3-3 「郵便物が届かなくなった」
私が司法書士事務所に勤めているときに、
破産申立をして管財事件になり、
「郵便物が届かなくなった」という電話を受けたことがありました。
親方の伝達ミスが原因でした。
管財人の元に届いた携帯電話の請求書があり、
引落の手続ができなかったので
コンビニで支払をしなければならないところ請求書が届かず、
困って電話をしてきたのでした。
危うく延滞になり唯一の連絡手段である携帯電話が止まるところでした・・。

4.終わりに
最近といっても、ネットが普及して久しいですが、
郵便物だけで全てをカバーできるのかなと思います。
今ではネットのサイトで色んな登録をしています。
それらの中には財産的価値のあるものも多々あるでしょう。
人によっては海外に財産を保有している場合もあります。
このようなモノや情報を郵便物だけで補足するのは限界ではないか、
さりとてその情報も含めて管財人に追跡調査を求めると
憲法上の問題が生じないのか、
そこには難しい問題が潜んでいるように思えます。

登記簿は語る

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1.はじめに
破産手続を含めた債務整理を弁護士や司法書士に相談する時点では、
相談者の多くは債務超過に陥っていることがほとんどです。
最初の時点では業績が良くないから、
その足りない部分を補うために融資を受けるなど、
ちょっとしたことから始めることが多いのでしょう。
そして、借りた金は返さなければいけないという思いを抱きつつ、
返済に向けて動かれる方が多いのです。
ところが他から借金をして返済をしていくようになると、
負債は雪だるま式に膨れあがっていきます。
金融機関であれば、信用情報センターが保有する情報の開示を受けて、
その方の情報をつかむことができますが、
一般の方にはそのような個人情報に触れることは困難です。
そこで、ここでは債務超過はどのような形で登記簿に現れるのかについて、
見ていきたいと思います。

2.登記簿とは
登記簿とは法務局にある情報で、
主に不動産の登記簿と商業法人の登記簿と2つあります
発行される証明書のことを登記簿謄本、
または登記事項証明書と呼んだりします。
不動産は土地と建物が別々に備わっています。
土地であれば所在や地番、宅地などの種類、面積が、
家屋であれば物件の所在や家屋番号、床面積などが記載されています。
商業登記簿で株式会社について見てみると、
会社の名前や本店の所在地、資本金や役員の氏名等が記載されています。
登記には他に債権譲渡登記の証明書や動産譲渡登記の証明書がありますが、
それは後述します。

3.不動産登記について
まず、不動産登記について見ていきます。
不動産登記には先ほどのように土地や建物の形状が記載されています。
それらに加えて甲区や乙区で権利関係が示されています。
甲区では所有権に関する事項が、
乙区では抵当権や賃借権などの権利事項が記載されています
乙区を見てみましょう。
抵当権や根抵当権などの登記が付いていて、
その後に他の権利が付いている場合があります。
登記の世界では原則として早い者勝ちですので、
先に登記をした者の権利が優先されます
ですので、1億円の抵当権がついているのに、
数百万円の抵当権を2番でつけても配当は期待できませんから、
意味がないように思えます。
だけど債権者としても、1円でも多く回収したいわけですから、
このような担保をつけることがあります。
このように銀行等の金融機関の担保権の後に、
個人の抵当権が付いている場合には、
あちこちでお金を借りている可能性があります。
なお、差押えや仮差押えといった事項は甲区で登記されます。
以前は支払が厳しくなったという時点で、
一斉に所有権移転仮登記や賃借権設定仮登記などの仮登記が
付くということがよくありました。
これらがついている不動産の所有者は、
かなり追い詰められていると思った方がいいでしょう。
差押えは言わずもがなです。

4.商業登記について
次に商業登記について見ていきます。
商業登記は会社の登記であり、
権利関係を示したものではありませんから、
直ちに会社の資産状況を判断するには適していないかもしれません。
他の資料や噂を基に判定していくことになるのでしょう。
例えば、資本金が急激に上がっていたり、下がっているような場合は、
会社に何かが起こっているのかもしれません
資本金はある程度ないと、
公共事業の受注ができないなど色々な事情があるのですが、
実体に合わない増資や減資を行っている場合は注意が必要です。
また商業登記簿には代表取締役以外に他の平取締役も記載されていますが、
決算期でもないのに役員の多くが入れ替わっていたりすると、
会社内部で何かあったのではないかと推察することができます

5.動産譲渡登記・債権譲渡登記について
最後に動産譲渡登記や債権譲渡登記について見ていきましょう。
これは会社が保有する機械などの動産や売掛金等の債権に対して、
担保を設定して融資を受けるような場合に使われます。
多くは不動産の担保の添え担保として使われていますが、
色々なものに担保が設定されていると、
それだけ資金繰りが苦しいのかもと推察されます。
ここで注意したいのは不動産と違い動産や債権は、
実際に存在しないものが登記できてしまいますので、
このようなモノに対して担保を設定する場合は、
先順位に担保が付いているかだけでなく、
実際に存在するのかを他の資料と現地で確認すべきではないかと思います
なお、不動産や会社の登記事項証明書とは違い、
動産譲渡登記や債権譲渡登記の登記事項証明書は
誰でも取得することができません。
概要証明書で状況を確認する形になります。

6.終わりに
ここでは登記簿から相手の懐事情を推察するを紹介しました。
登記簿、特に不動産登記簿は権利関係を把握するのに適した資料ですから、
これから取引をする所がどういう所なのかを下調べするのに適しています。
近年ではインターネットで低価格で謄本を取り寄せできますので、
それらをうまく使って安全な取引をして下さい。

債権者集会の実際

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1.はじめに
2020年はコロナの影響で、株主総会や諸々の総会の開催に
苦労をしているとの話をよく耳にします。
株主総会では、通常は株主からの質問対策に時間を費やすのでしょうが、
今年はクラスターが発生しないように
どう総会を運営すべきなのかについて多くの検討をしたことでしょう。
ところで、破産手続にも多くの人が一堂に集まる場合があります。
それは債権者集会というものです。
では債権者集会とは、どのようなものなのかについて今回は見ていきます。

2.管財事件で債権者集会は開かれる
まず破産手続は大きく2つに分かれます。
一つは同時廃止という手続です。
これは破産申立を行い、破産手続開始決定が出ると同時に出されることが多いです。
「廃止」とは手続を止めることです。
通常は破産手続をするにも費用が必要なのですが、
その費用もカバーできないような事件に対して出されます。
もう一つは管財事件です。
これは破産手続開始決定と同時に管財人が選任されるパターンです。
破産申立をした人が経営者である場合、
不動産や高額の財産を有していた場合の他に、
借金の責任から解放される免責決定を出すのに支障がある場合に
管財人が選任されます
管財人が選任されると、破産者の所有していた財産の調査等が行われて、
それらが金銭に換価されて各債権者に按分割合で配当が行われます。
その配当が行われる前に債権者集会は開かれます

3.債権者集会とは
債権者集会では、管財人が破産者の財産と収支の報告が行われます。
そして破産財団を構成するような財産がない場合には、
免責をさせるかどうかについての申述が行われます。
他方で破産財団を構成するような財産がある場合には、
配当の許可が出されて、各債権者への配当が行われます。
特段の問題がなければ裁判官は、この集会を終結させます。
通常の裁判は憲法上公開という形が保障されていますが、
この債権者集会は裁判所の法廷で行われるものの、
誰でも見られるものではありません
裁判官と管財人、破産申立をした人、そして債権者など
一部の限られた人のみが出席できます。

4-1 実際の債権者集会
さて債権者集会と聞いて、どのように思われますか?
多くの債権者がヤジや怒号を飛ばす中で、
破産した人が泣きわめきながら質問に対する説明を行う、
そんなイメージがどうしてもつきまといます。
そんな集会もあるのかもしれません。
ところが、実際には債権者のほとんどは出席しません
来るとしたら、金融機関のようなプロの債権者ではなく、
場慣れしていない一般の債権者であることがほとんどです。
それも何時間にもわたって審理されるのではなく、
ものの5分~10分で集会は終わります

4-2 あれ、何だったの?
実際に破産した個人の方から聞いた話です。
債権者集会は破産手続を選択した時と同じくらいに緊張して臨んだそうですが、
大口の金融機関系の債権者は全然来て居らず、
友人知人という債権者が場の隅っこの方に座っていてあっけなく終わったそうです。
よくよく考えてみれば、金融機関も債権者集会に出て色々意見を出すよりも、
他の案件の回収対応に忙しくてかまってられないというところなのでしょう
広い法廷に通されて、ものの数分で終わってしまい、
「あれ、何だったの?」と思ったそうです。
なお、その債権者集会が終わって程なくして免責決定が出たとのことでした。

5.終わりに
マスコミを賑わすような社会的関心の高いものは、
このようにシャンシャンと終わることはないのかもしれません。
また色々な人からお金を借りて倒産したような場合では、
債権者も多数いるでしょうから、
すんなりとは集会も終わらないことでしょう。
でも、債権者集会は破産して最終的な免責を得るための
儀式のようなものなのかもしれません。
倒産した会社や個人からの話を聞いてると、そんな感覚を持ってしまいます。

債務整理の種類、破産で言う支払不能の基準を考える

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1.はじめに
事業をしていく、または生活をしていく中で、
返済が厳しく思う時があるかもしれません。
それも一時的にではなく、
今後も継続的にそういう事態に陥りそうだという時に浮かぶ言葉は、
「破産」ではないでしょうか。
それでは破産とはどういう状態のことを言うのでしょうか、
ここでは他の債務整理の方法を紹介しながら、
破産の基準について見ていきたいと思います。

2.私的整理と法的整理
債務を整理する、と一言で言っても色々なものがあります。
大きく分けると私的整理と法的整理の2つの方法があります。
ここでは、私的整理と法的整理の概念から見ていくことにしましょう。
私的整理とは裁判所などの手続きによらず
話し合いで債務の整理を進める方法であり、
法的整理とは裁判所の手続きを介して債務の整理を進める方法です。
以下、順に説明していきます。

3.私的整理の種類
まず私的整理について見ていきます。
私的整理とは上述のように裁判所を介さず進める手続きの総称です。
具体的な方法としては任意整理とADRが挙げられます。
任意整理とは、債務整理の最もポピュラーな方法です。
例えば債権者が複数ある場合、
代理人である弁護士や司法書士が個別に交渉を行い、
債権者毎に和解契約を結びます。
基本的には利息をカットして元本の優先返済ですが、
条項によっては返済期日を過ぎても支払わなかった場合に備えて
損害金の条項が入ったりします。
和解契約が終了したら、
債務者は毎月分割で各債権者毎に条項毎の金額を分割返済していきます。
ADRは事業再生ADRなどが挙げられます。
これは債権者と債務者の間にADRを行う団体が介在しますが、
流れは概ね前述の任意整理と同じです。
この私的整理の方法は裁判所が間に入らないので、
法に則った厳格な手続きではありません。
そのため、問題を事案に応じて柔軟に解決することができます。
ただ裁判所などの公平な機関が入らないので、
債権者ごとに不公平が生じる場合があります。
それが原因で債権者間の調整がつかず話し合いがまとまらないリスクもあります。

4-1 法的整理・会社更生法と民事再生法の場合
次に法的整理について見ていきます。
これは私的整理とは違い、間に裁判所が入り、
会社更生法・民事再生法・破産法などの各種倒産法を通して
事件を処理していく方法です。
法律に則った手続きであり、債権者間で公平になる点はメリットと言えますが、
硬直化していて場面に応じた柔軟性に欠ける点がデメリットとなります。
まずニュース等でよく目にする会社更生法と民事再生法ですが、
これは法人の場合ですと復活を前提とした制度です。
ただ会社更生法は手続きが複雑で費用も高額です。
更に期間も長期にわたるため、
実際の利用は、かなり規模の大きい会社に限られるのが実情です。
続いて民事再生法ですが、これは会社等の法人だけでなく個人も利用が可能です。
個人の場合ですと負債は多額になりますが、
マイホームを残したい、手放したくないという場合によく利用されます。
申立をした後、目録や再生計画を提出し、
債権者集会が開かれて計画を遂行していくことになります。

4-2 法的整理・破産の場合
以上の法的整理のメニューに対して破産は、最後の選択肢として位置づけられます。
会社更生や民事再生は法人の存続が前提ですが、
破産は法人の解散事由になります。
そして破産申立をなしうる重要な要件としては、
債務超過と支払不能という状態です。
それも一時的にではなく恒常的な状態を言います。
そして一般的には総債務を全部数字化して、
債務者の支払能力と資産を金銭に換算し
債務を分割で支払っても3年(36ヶ月)で払うことが困難であれば、
支払不能の要件を充たしていると言えます。
このような場合に、管轄の地方裁判所に破産申立を行うことになります。

5.終わりに
ところで、破産すると言っても裁判所に納付する予納金が必要になります。
その金額は管財事件か同時廃止か等で変わってきます。
また破産状態と一言で言っても、破産を回避する他の手段があるかもしれません。
それは支払ができなくなって、どうにも身動きが取れなくなるよりも、
もっと早い段階で検討する話です。
支払に追われ、厳しい局面を向かえた時に、
一度立ち止まって今後の展望を考えると、
表面的なものではなく、心の底から自然と答えが出てくるかもしれません。

貸金回収の現場から

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1.はじめに・20年位前の話
ちょっと今回は趣向の変えた話をしたいと思います。
何の世界でも流行り廃りがありますが、
貸金業の世界にも、それはあるように思えます。
どちらかと言うと、今は廃っているのかもしれません。
西暦にすると2000年前後の話、今から20年位前の話です。

2.消費者金融全盛の時代
2000年頃まで消費者金融は大きく脚光を浴びていた時代でした。
大手の会社は皆、テレビのゴールデンタイムにCMを出していましたし、
町を歩けば消費者金融のティッシュが何個ももらえました。
やはりお金を借りるのは後ろめたさが伴うので、
無人契約機なるものが次々と作られて
気軽にキャッシングができるようになったのです。
「サラ金」というイメージを払拭したように思えました。
他方で、借金を返せなくなり自己破産等の債務整理手続きに入る人が続出、
原因は他にもあるのでしょうが自殺する人も
今以上に多かったと記憶しております。

3-1.貸し渋り・貸し剥がしの受け皿
何で消費者金融等の高金利の業者が、
そこまで活発だったのかは当時の社会状況と密接に関連しています。
もちろん、各会社の営業努力で貸付残高を増やせたのも一因にあります。
CMや無人契約機のおかげで、
消費者金融等につきまとう後ろめたさが払拭できたのは否定できません。
そしてもう一つの大きな原因は、
銀行の貸し渋りが大きかったのではないかと思います。
当時、銀行はバブル期からの不良債権の処理等で苦しい立場にありました。
それができずに倒産した大手銀行もあったのです。
そして、自己資本比率の規制により、
事業者に対する貸し渋りや貸し剥がしに舵を切るようになったのです。
銀行が貸してくれなくなったので、
中小企業の社長が自殺したというニュースを僕は未だに覚えています。
では、当時銀行から貸してくれなかった事業者はどうしたのでしょうか?
もちろん、銀行に担保を上積みして取引を続けた所もありますが、
貸してくれなくなった業者はノンバンク、
言い換えれば商工ローンの業者や消費者金融に助けを求めるようになりました。

3-2.当時の利息
当時の出資法の上限は40,004%、
利息制限法は100万以上で15%と利息は法律で定められていました。
その間はいわゆる白でも黒でもない、グレーゾーンと呼ばれ

多くの業者はその狭間で利息を取り、収益を上げていたのです。
消費者金融は無担保無保証、
事業者金融は保証人をつけて融資を実行することが大半でした。
リスクの高い取引だから金利が上がるのは当然という風潮が、
その当時にはありました。

3-3.期日に遅れた場合
とはいうものの、銀行からの融資に比べて
払う利息が格段に上がるのは否めません。
では、もしこのような所から借りて遅れてしまった場合は
どうなったのでしょうか?
これは即電話がかかってきました。
当時は携帯電話が普及したてのころで、未だ持ってない人も多く、
自宅や勤務先、果ては実家まで電話がかかってくることもありました。
一昔前では隣の家まで電話がかかってきたり、
近所の人が督促されたこともあったようです。
ガイドラインでは21時から朝の8時まで
電話などしてはいけないとあったようですが、
有名無実化していたのかもしれません。
これだけでも十分きつかったのですが、これよりも更に過酷な所がヤミ金でした。
090金融、システム金融、
これらはコンプライアンスを最初から無視した所であり、
一度利用したら抜け出るのは、ほぼ不可能に近い状態でした。

3-4.債権管理者の目線から
債権回収の現場にいると、
年月を経ると同時に利用者(延滞者)の状況が
逼迫していくのがわかると聞いたことがあります。
今はこの状態で回っていても、だんだん支払が厳しくなり、
雪だるま式に借入を増やしていくのでしょう。
そして債権管理の担当者が顧客の名前を覚えるようになると、
半年から1年の間で、その方は「飛ぶ」ことが多いと聞きます。
「飛ぶ」とは夜逃げするか法的整理に入ることです。

4.それは将来もプラスになることですか?
どこまでがセーフで、どこからがアウトか、それを一律に決める基準はありません。
絶対不動のものではなく、
色んな事情が重なったケースバイケースのものだからです。
仕事をしているとお客さんとの長い付き合いを求めるのは世の常ですが、
残念ながら金利の高い所を利用する人は
一定の月日が経つと消えてしまうことが多いそうです。
これを利用すれば今は持ちこたえられても、
長い目でみてプラスになるのでしょうか?
もし答えが見いだせず、
むしろ傷口を広げるだけなのであれば整理をするときが近づいている、
決断を求められる日が近づいていると思って下さい。