自己破産後に起業資金目的で利用できる融資

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1.はじめに

前回から自己破産した経験を持つ人が
利用できる融資について解説しています。

この記事では、自己破産後に起業資金目的で
利用できる融資について見ていきます。

 

2.自己破産後に起業資金目的で利用できる融資
起業目的であれ、そのほかの目的であれ、
自己破産した人が銀行から融資を受けることは非常に難しくなります。
実際、信用情報機関に自己破産の記録が登録されている間は、
民間の金融機関から融資を受けることはできません。
それでは、民間の金融機関以外に
資金調達する方法はないのでしょうか。
実は、公的な機関であれば、
自己破産した人であっても利用することのできる融資制度があるのです。

 

再挑戦支援資金(再チャレンジ支援融資)
政府系金融機関である日本政策金融公庫が
実施している融資制度の1つです。
民間の金融機関を利用できない人であっても、
利用することのできる制度となっています。
そのため、自己破産した人が
真っ先に検討すべき資金調達方法なのです。
この制度の特徴は以下のようになっています。

 

利用できる人 新たに開業する人または開業後7年以内の人で、以下の要件すべてに該当することが必要です。
①廃業歴がある個人または廃業歴を有する経営者が営む法人である。
②廃業時の負債が新たな事業に影響を与えない見込みである。
③廃業の理由や事情がやむを得ないものである。
融資限度額 7200万円以内(このうち運転資金は4800万円)となっています。
利率 令和3年1月4日現在、年利2.06~2.45%
ただし、特別利率が適用される場合があります。
返済期間 設備資金については20年以内、運転資金については7年以内となっています。

参照:再挑戦支援資金(再チャレンジ支援融資)|日本政策金融公庫



融資を受ける際に、
廃業の理由や事情について問われることとなります。
借金の返済ができずに夜逃げして、
その後の法的整理を行っていない場合や、
不法行為が原因で廃業した場合は利用できません。
また、ここには明記されていませんが、
融資金額の上限は自己資金の2~3倍程度になると考えられます。
たとえば、運転資金の上限である
4800万円の融資を受けるためには、
自己資金が少なくとも1600万円程度必要ということです。
また、担保や保証人については要相談となっていますが、
基本的に必要になるものと考えておきましょう
ただ、自己破産した後は担保となる財産を保有していないため、
誰かに保証人になってもらう必要があります。
この時、後で保証人となってもらった人とトラブルにならないよう、事情を説明しリスクを理解してもらうようにしましょう。

 

信用保証協会付融資
信用保証協会とは、中小企業や小規模事業者が融資を受ける際に、
金融機関に対する返済を保障してくれる公的機関です。
民間の金融機関で普通に融資を受けることが難しい場合でも、
信用保証協会の保証があれば融資されることはよくあります。
そのため、自己破産した人に限らず、
中小企業などが融資を受ける際に信用保証協会を利用することが
条件となる場合があるのです

信用保証協会を利用すると、
会社が返済に行き詰っても信用保証協会が金融機関に代わりに返済を行います。
その後、信用保証協会は会社に対して
金融機関に対して返済した金額を請求することとなります。
信用保証協会を利用したからといって、
融資の返済が軽減されるわけではないので、
勘違いしないようにしなければなりません。
ただ、融資を受ける際に信用保証協会を利用することが
条件となっているため、利用しなければならないのです。

信用保証協会の保証を受けるためには、
信用保証料を支払う必要があります
信用保証料率は、事業者の財務状況などを審査し決定されます。
各保証協会によって違いがあることも考えられますが、
年率0.45%~1.90%程度となっています。
原則として、借入を実行する際にまとめて支払う必要があるため、
その負担について考慮しておく必要があります。

また、融資の金額や利率については金融機関ごとに決められています。
利用条件についても、各金融機関で定められているため、
実際に相談してみましょう。
なお、利率については、令和3年1月現在、
主な金融機関では以下のようになっています。

 

固定金利(返済期間5年以内) 1.6%以内
固定金利(返済期間10年以内) 2.0%以内
変動金利 1.675%程度



日本政策金融公庫の再挑戦支援資金とは違い、
変動金利を選択することができるのが大きな特徴です。
金利負担は、再挑戦支援資金より少なくなると考えられます。
一方で、保証料の負担は
信用保証協会を利用した場合だけに発生します。
保証料まで含めて考えて、
どちらにメリットがあるのか検討するようにしましょう。

自己破産直後の会社設立が難しい理由

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1.はじめに
起業して会社をおこしたものの、
うまくいかずにそれが原因で
自己破産した経験がある方もいると思います。
しかし、商品のアイデアや提供するサービスの内容は優れているため、
もう一度起業したいと考えるかもしれません。
その時に障害となるのが、
過去に自己破産した経験があるということです。

そこで、今回から3記事に分けて
自己破産した経験を持つ人が利用できる融資について解説します。
また、自己破産以外の債務整理の方法や、
融資以外の方法で資金調達する方法についてもご紹介します。

まずこの記事では、
自己破産直後の会社設立が難しい理由について見ていきます。

 


2.自己破産直後の会社設立が難しい理由
そもそも、自己破産した後に起業することは、
本当に難しいのでしょうか。
また、起業するのが難しいとすれば、
それはどのような理由によるのでしょうか。
一般的に、自己破産した人がその後に直面する
問題について確認しておきます。

 

つくことのできる職業が制限される
様々な職業の中には、
自己破産の手続きを行っている人は欠格事由に該当するとして、
制限を設けているものがあります。
自己破産の手続き中の人に対して
制限を設けている主な職業は、以下のとおりです。

  • 弁護士、公認会計士、司法書士、税理士などの士業
  • 生命保険募集人、貸金業者、質屋など金銭を直接的に扱う職業
  • 建設業、旅行業取扱主任者、警備業者などを営む者
  • 公証人や公正取引委員会、教育委員会の委員など一定の公務員

ただし、これらの職業に該当する場合でも、
資格自体をはく奪されるわけではありません。
破産手続開始決定から免責が確定するまでの期間、
資格者としての登録が認められないということになります。
なお、通常は3か月程度で免責が決定しますが、
これ以上の時間がかかる場合もあります。
また、自己破産をしても資格の登録には
一切影響のない職業もあります。
医師や看護師、介護士や教師などの職業については、
自己破産しても制限を受けないのです。

 

会社の役員を退任しなければならない
会社の取締役や監査役が個人的な理由で自己破産した場合、
会社自体は残っていても会社との委任関係は終了します。
そのため、自己破産開始決定を受けると、
自動的に取締役や監査役の地位を失うこととなるのです。
ただ、改めて会社の株主総会で
取締役に再任することについては、制限を受けません。
そのため、自己破産の手続き中であっても、
すぐに取締役や監査役に復帰することは可能です。

 

新たな借入ができなくなる
自己破産した人は、少なくとも5年、長いと10年程度は、
自己破産したという情報が信用情報機関に登録されます。
その情報が登録されている間は、
新たに借入をすることができなくなります
住宅ローンや自動車ローンなどの利用も、
この間はほぼ不可能となるのです。
また、クレジットカードを利用することもできなくなり、
新たにクレジットカードを作ることもできません。

 

財産がほとんどなくなる
自己破産の手続きにより、
保有していた財産はほぼすべて換価され、債権者への支払にあてられます。
そのため、自己破産した直後は、
生活に必要なごくわずかの財産が手元に残るだけとなってしまいます。
実質ゼロからのスタートとなるため、
起業のための資金を確保するには時間がかかるのです。

 

賃貸物件を借りることが難しくなる
自己破産した人であっても、
事務所や店舗のための物件を借りることに制限は受けません。
しかし、自己破産した人は保証人にはなれないため、
別に保証人となってくれる人を探す必要があります。

権利の上に眠る者は・・

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1.はじめに
小さい頃からの知り合いと、久しぶりに再会しました。
ものすごく几帳面になっていました。
一緒に飲み屋に行ったのですが、1円単位で割り勘をしてくるのです。
あまりの細かさに酔いも醒めそうになりました。
昔からこんなヤツだったかな?、と思っていたのですが、
聞いてみると親の残した借金の返済で生活が苦しく
自然と金銭感覚が細かくなったとの話でした。
友達の親は個人事業主で、
その事業で色々と運転資金を借りて、
未だその残債務が残っているとのことでした。
ところが、色々な所から借金はしてたようですが、
どこからどれくらいの額を借りていたのか、
友達もはっきり知らないのだそうです。
中には請求をしてこない所もあるような印象を受けました。
なお、親は既に他界していて詳細はわかりません。
「それって時効じゃないの?」
僕の頭の中には、その疑問がよぎりました。
時効、色々な所で聞く言葉です。
それでは、時効とはどのようなものなのか、
よく「時効だ!」とは言いますが、
どういう場合が時効なのか?
ここではその点について見ていきます。

2.時効とは?援用とは?
ある権利があったとします。
ところが、権利を持っている人はその権利を中々行使しようとはしません。
他方で、年月が経つと色々な事実が積み重なっていきます。
例えば土地の所有者はいるのに、
別の人がその土地を使っている、
そんな状態が何年にもわたって続いているとすると、
保護するべきなのは真の所有者ではなく、
その土地を使っている人の側になります。
これを永続した事実状態を尊重すべきという観点からのものです。
ただ、真の権利者にも配慮が必要です。
そこで時効の利益を受けたい場合は
真の権利者に対して時効の援用が必要とされているのです。
要は「時効だ、私が権利者だ!」と本当の所有者に主張するのです。

3.消滅時効の場合
時効にも権利を取得する取得時効と権利を失う消滅時効があります。
先ほどの例は典型的な取得時効のケースです。
他方の消滅時効は、主に債権で問題となります。
債権者がいるのに請求してこない、
だから「時効だ」というような場合です。
この消滅時効は従来は10年でした。
商事債権については5年という規定もありました。
そして2020年の債権法改正で
主観的時効は5年(権利が行使できることを知った時から)、
客観的時効は10年(権利が行使できる時から)となりました。
ただし、法改正以前の債権については従来通りの時効が適用されます。
友達のケースでは時期はわかりませんが 、
2020年以前であることは明らかです。

4.時効は時間の経過だけでは決まらない
もっとも時効にかかっているかは時間の経過だけでなく、
相手方や自身の対応によっても変わります。
返済していれば時効にはなりませんし、
返済していなくても
相手方が裁判を起こして強制執行をしていたような場合は、
権利を行使しているといえますので、時効にはなりません。
このような場合は再び振出に戻って時効期間をカウントすることになります。

5.友達のケース
さて、友達の場合はどうなのでしょうか?
請求してきて実際に払っている所は時効の問題は起こりません。
他方で、請求してきてない所で債権者が貸金業であれば、
商事債権として5年で時効にかかっていると言えるでしょう。
裁判所から郵便物等が来たこともないそうです。
貸金業者が請求してこないことがあるのか疑問に思うかもしれませんが、
相続が発生すると相続人が誰なのかわからない場合もあるでしょうし、
取引の古い債権であれば、
利息の払いすぎ状態(いわゆる「過払い」)になっているなどして
請求しにくいという事情も働いてきます。
友達のところはわかりませんが、
「昔の督促状や書類を見て請求してこない所は、
時効にかかってるかもしれないよ。
その場合は内容証明を送ってみたら?」
とアドバイスしました。
その結果、全然見えなかった債務の全容がわかり、
気持ち的に随分落ち着いたようです。
結果として、前ほど、お金にも細かくなくなりました・・・。

6.終わりに
時効、これは援用することで支払が減る場合もあれば、
逆に援用されることで売掛金等を失う場合もあります。
もし事業者であれば、日頃の売掛金などの債権については、
貸金業者ほどではないにしても、
なあなあにせず管理を徹底した方がいいのではと思います。

夜逃げは債務整理となりうるか?

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1.はじめに
小さい頃にテレビゲームをしていた時の話です。
都合が悪くなると、よくリセットボタンを押しました。
そうすると悪夢のような展開が消えてなくなり、スッキリしたものです。
そんな自分も大きくなって税理士事務所に勤めるようになりました。
そして顧問先を訪問すると自宅兼事務所に誰も居ない、
留守かと思いきや、もぬけの殻でした。
最近はあまり聞かなくなりましたが、いわゆる夜逃げです。
夜逃げに至る前には、色々な兆候がありました。
羽振りがいいように見えたのですが、
帳簿をめくると火の車なのが一目瞭然でした、
とにかく負債の部分が大きかったのです。
支払も徐々に遅れが目立ち始め、
いつしかずっと税理士報酬も払ってもらえてない状態が続いたのです。
訪問したのは、いわゆる督促が目的でした。
そのXデーがとうとう来たのかな、と当時は感じたものです。
このような場合に、
追う方の立場になる債権者はどのような行動を取るのでしょうか?
また夜逃げは債務整理の方法になるのか、考えていきます。

2.夜逃げは債務整理のツールか?
このブログで何度か紹介していますが、債務整理にも色々な方法があります。
結果として、債務を抱えている人の負担は減ります。
では、夜逃げはどうなのでしょうか?
確かに、今の状況から逃げることで心理的には落ち着くかもしれません。
債権者からの督促も来なくなり、ホッとした気持ちになるでしょう。
ところで夜逃げして新天地に移ったとしても、
生きていく上では色々なサービスを行政から受ける必要があります。
例えば、子どもがいるのであれば学校に行かせなければなりませんし、
病気や怪我をしたときには医療機関に受診するための保険証が必要になります。
これらの公的サービスを受けるためには住民登録の変更が不可避です。
夜逃げなどの事情があれば、行政の側も事情を汲んではくれるでしょうが、
それはあくまで一時的な話です。
でないと、たちまち生活は行き詰まってしまいます。
債権者は定期的に行方のわからない人の住民票を取るなどして、
行方を捜しています。
もし夜逃げして債権者の追求をかわせたとしても、
住所変更手続をすればたちまち知れ渡り、
夜逃げ前と同じように追求を受けるようになります。
要は時間の問題なのです。

3.人は追い詰められると・・
かつて私の家は裕福な家庭でした。
ですが、社会情勢の変化と、
必要以上に受けていた融資のために歯車が狂い始めました。
父は返済のために色々と動いたのですが、
借りては返しを繰り返して行く中でかえって借金を増やしてしまったのです。
もう自転車操業の状態でした。
そのうち、その「自転車」のペダルも回らなくなってきて、
督促の電話が頻繁に来るようになりました。
後で父から、
「あのとき現実を否定したらどれだけスッキリしたことだろう」と
つぶやいていたのを思い出します。
その「現実を否定」というやり方が、
人によっては自らの命を絶ったり、夜逃げであったりするのでしょう。
でも、あくまでそのような方法は一時的なことであり、
問題の根本的な解決にはならないと悟って債務整理を選択しました。
その結果、先祖代々から所有していた不動産は全部、他人の元に移りました。

4.一瞬だけのリセット
夜逃げはリセットの一つだと思います。
一度はスッキリします。
ですが、テレビゲームと違って、
これからもずっとスッキリできる保証はありません。
リセットは今まで、できていたことも否定することになり、
全部をやり直すことになります。
これを夜逃げに置き換えると、
お金面だけでなく、人としての信用も失う展開になるのです。
仮に夜逃げをしたとしても、
いずれは置き去りにしてきた現実と向き合わなければなりません。

5.結びに代えて
夜逃げをした顧問先も、二重帳簿をつけて現金を持っていたら、
当面はお金に困らないかもしれません。
ですが、それでハッピーエンドにならないのが、この世の中です。
まして今は情報化社会ですから、
どこかで起きた出来事が瞬時に違う所にいても伝わってきます。
そしていずれは居場所を住民登録の変更という形でさらさなければならないのです。
一瞬のスカッとした気持ちの代償は、
あまりにも大きいと言わざるを得ません。

私的整理と法的整理

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1.債務整理にも色々な方法がある
過払い金返還のおかげで債務整理という言葉が、
随分浸透したように思います。
債務整理とは基本的にはいま抱えている負債をどう整理するのか、
眼目は生活や事業の再建にあります。
そしてその債務整理にも、色々な方法があります。
司法書士事務所に勤務していたときに、
債務整理の相談があると色々な方法があるのだなと実感したものです。
数字を扱う税理士の仕事となると企業再生が中心となり、
リスケや法的整理の数字面を担うことが多くなるのでしょう。
ここでは、債務整理にはどのような方法があるのか、
私的整理と法的整理の違いと各整理方法を見ていきます。


2-1 私的整理とは
先ほど、債務整理には私的整理と法的整理があると述べました。
これはひとえに裁判所が関与するのかしないのかによって分けられます。
まず私的整理です。
私的整理とは裁判所の関与しない債務の整理方法で
ポピュラーなものとしては任意整理、他には事業再生ADRが挙げられます。
任意整理とは、
個人の債務整理で言うと弁護士や司法書士が依頼者と委任契約を結んで、
依頼者の抱える債務について
個別に債権者と交渉して債務の整理を行うことです。
具体的には債務整理開始通知を出して各債権者から債権の届け出をしてもらい、
収入と支出のバランスを考えて返済可能であれば
各債権者と返済方法等について交渉して和解契約を結び、
分割返済等をしていくやり方です。
事業再生ADRとは、民事再生や会社更生などの法的手続によらず、
経営に行き詰まった会社が債権者と話し合いで負債の整理方法を話し合って、
返済方針を決めていくやり方です。
ADRとは裁判外紛争解決手続のことをいい、
事業再生ADRについて公的な認証を受けているのは
一般社団法人事業再生実務家協会です。

2-2 私的整理のメリット・デメリット
私的整理を選択するメリットは、その柔軟性です。
法的手続のよると法律に則った運用がなされるので、
厳格な手続にならざるを得ません。
他方で私的整理ですと、
大枠はあるものの法とは違った柔軟な解決方法の模索が可能となります。
一般的には一刀両断で決めるよりも、
話し合いで決めたことを実行していく方が履行率は高いと言われています。
当事者が譲歩し、または納得してできた結果を履行していくわけですから、
それも自然な話です。
他方で、裁判所のような法に基づいた運用がされるわけではありませんので、
ケースバイケースになる可能性があります。
この債権者とはこうなったけれども、
他の債権者とはかなり違った条件で和解したということが起きかねません。
それが私的整理のデメリットと言えます。

 

3.法的整理、そのメリットとデメリット
次に法的整理について見ていきます。
法的整理は、裁判所が関与して法律に基づいて債務を整理していく手続です。
具体的には民事再生、会社更生、破産などが挙げられます。
民事再生は会社でいうと
会社の経営陣と債権者の間で利害を調整して再生計画を作成し、
それに基づいて事業を再建していく方法です。
他方、会社更生とは現経営陣は退陣して
管財人が選任されて、更正に向けた手続が進められていきます。
主に事業規模の大きい会社が倒産したときに利用する制度です。
破産は支払不能状態に陥ったときに選択する、言わば最後の手段です。
この場合、免責が出ると債務を支払う義務はなくなりますが、
法人格は消滅します。
法的整理は裁判所が法律に基づいて運用していきますので、
事案によって異なるようなことは起こりません。
ただ画一的な形となりますので、柔軟性に欠けたものとなります。
債権者が多数いるような場合では、法的整理で対応するのが妥当です。


4.終わりに
ここまで私的整理と法的整理について見てきました。
関係者が多数で交渉も難航することが予想される場合は法的整理を選択する、
特定の債権者との交渉であれば私的整理を選ぶなど、
事案に応じて方法を選択するのが債務整理の納得のいく解決方法だと思います。
もっとも客観的に支払そのものが難しい場合は
最後の選択肢としての破産を選ぶ形になるでしょうが、
何がしかの方法はあるはずです。
行き詰まった場合は、
客観的な状況と自身の意向を決めて債務整理を検討してみてください。

粉飾決算事始め

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1.はじめに
「えっ、あの会社が!?」
大手企業の経営破綻のニュースを見ると、いつも驚かされます。
中には、つい最近までテレビでCMを流していたり、
あるいは大物芸能人を使ったキャンペーンを展開していたりなど、
破綻とは無縁のところで活躍していると思うところが、
急転直下でそうなるのですから無理もないでしょう。
破綻する要因は多々あります。
世の中の景気に左右される場合もあれば、
何かの不祥事を起こして社会的信用を失ったりする場合もあります。
その他にも帳簿上の数字をごまかし続けて
来たるべき時が来たという場合もあります。
粉飾決算でごまかし続けていたものの、
もうどうすることもできなくなったようなケースです。
ここではよく耳にする粉飾決算とはどのようなものなのか、
講学的な話になるかもしれませんが、
その手口について紹介したいと思います。

2.粉飾の動機
まず会社は年に1回は決算をしなければなりません。
組織が大きくなればなるほどお金の出入りが激しくなりますが、
一度その出入りをチェックして儲かったか儲かってないのかなどを精査し、
税金の申告等を行います。
会社の決算は公告が義務づけられています。
上場している会社については、
情報開示が強く求められるので
会計関係など色々な情報を開示する必要があります。
それが投資の判断材料となり、社会的信用へと繋がっていきます。
さて、会社が実は儲かっていない、
言わば赤字であるのに黒字を装ったらどうなるのでしょうか?
黒字を装わなければならない理由は色々考えられます。
例えば、銀行の融資が止められる、
株主から経営陣に責任追及がされる、
業種によっては赤字の会社では公共工事を受注できない、など色々です。
そのために、会社は本来してはいけないことに手を染めてしまうのです。
次に、その手口について見ていきましょう。

3-1 粉飾はどのように行われるか
まず考えられるのが帳簿の水増しです。
例えば架空の売上をあげる、在庫を増やす、
そして実際かかっている経費よりも少なく計上するといった方法があります。
その他にも企業再編を巧みに使った方法もあります。

3-2 合併
その一つが儲かっている会社と合併する方法があります。
2005年の会社法施行まで、
会社が合併する場合は債務超過の会社と合併することはできませんでした。
ところが、現行法では債務超過の会社との合併も可能となっています。
体力のある企業と合併すれば、
そのパワーを吸い取ってしまうもののマイナスという数字が消えてしまうので、
本来見せたくない数字を闇に葬ることができます。
もっとも赤字を作る部分を改善しない限りは、
やがて負の部分に引きずられていくことになります。

3-3 会社分割
次に、会社を分割する方法があります。
例えば、製造部門と流通部門、ホテル部門など企業によっては
色々な事業を展開していて、
それが会社の収益を支えているのは場合があります。
中には黒字部門と赤字部門のある場合が考えられるでしょう。
そのような場合に分社化して赤字の部門を別会社に切り離して、
黒字の部門を存続させるというやり方です。
専門用語では会社分割と言います。
この方法は、企業の再生のためには非常に有用な方法ですが、
株主や会社の債権者が納得できないやり方ですと、
後で訴訟になるリスクが高まります。
現に会社分割制度を悪用した行為だとして訴えられたケースがありました。

4.粉飾し続けていると
では、このように色々なやり方で粉飾決算をしているとどうなるのでしょうか?
儲かっているように見えても実際は火の車状態なのですから、
いずれは身動きが取れなくなり、
最悪の場合は経営破綻へとつながります。
また経営陣は刑事責任を問われます。
現状よりもよく見せたい、このような気持ちは
会社でなくても誰にでもあるものです。
そして最初のきっかけは小さなウソなのかもしれません。
ですが、そのウソを取り繕うためにまたウソを重ねていくと、
その規模はとてつもなく大きなものとなります。
その会計版が粉飾決算なのです。

5.終わりに
以前、税理士と話しているときに
初めて対面する会社の決算書を見るときは
決算書は粉飾されているものと思って目を通すと聞いたことがありました。
規模の大小はあれど、どこにでもあるものかもしれません。
何年か前の新聞で
「数字はウソをつかないが、ウソつきは数字を使う」という言葉がありました。
数字を扱う者の端くれとして、
数字を過信せず、また加担せず、気を引き締めたいところです。

過払い金とは何なのか?

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1.はじめに
1990年代後半はテレビや電車の中の広告で、
消費者金融系の広告を見ない日はありませんでした。
それが2010年前後になると消費者金融系の広告から
司法書士事務所や法律事務所のものばかりになりました。
司法書士というと土地や建物の名義変更というイメージが強かったのですが、
当時は債務整理もやっているという印象を強く世に与えました。
その当時は過払い金の返還が業界内でのトレンドだったのでしょうか。
実際、その時期に司法書士事務所で勤務していたのですが、
過払関係の相談が多かったと実感しています。
それでは、2010年前後までよく耳にした過払金とはどのようなものなのか、
そして今も未だあるのかについて見ていきます。

2.消費者金融を取り巻く法制度
まず過払い金の話をする前に、
90年代後半の法制度について簡単に見ていきます。
お金の貸し借りの契約を金銭消費貸借契約といいます。
そして消費者金融を取り巻く法律には
利息制限法・貸金業規制法・出資法という法律があります。
利息制限法では

10万円未満 20%
10万円以上100万円未満 18%
100万円以上 15%

と利息の上限が定められていましたが、
他方で当時の出資法には年40,004%を越えると
刑事罰を科すという規定がありました。
その頃の消費者金融の利息は20%台後半が多かったのですが、
この利息制限法と出資法の狭間を業界ではグレーゾーンと呼んでいました。
本来であれば利息制限法違反なのですが、
貸金業規制法が定める一定の要件を充たせば
その利息を取っても問題にはならないという定めがあったのです。
1990年代後半は銀行の自己資本比率を上げるための
貸し渋り・貸し剥がしがあり、
融資を受けたい人の受け皿となっていたのが
消費者金融や商工系のローン会社でした。
これらは銀行のように不動産を担保に取らず、保証人をつけたり、
または無担保無保証で融資をしていたので、
業績を伸ばし続けていたのです。

3.2006年の判決以降の流れ
ところが2006年の最高裁判決で、
上述のみなし弁済を貸金業者側が主張する余地はほぼなくなりました。
高い金利で払い続けていたものを利息制限法の利率で引き直すと、
利息どころか元本まで既に払い終わっていて
逆に借主側に返してもらう権利が発生している、
これがいわゆる「過払い金の返還」ということです。
2006年以降は、
消費者金融など利息の高い所から借入した人が
逆に払いすぎていたお金を返してもらうという事態が発生しました。
今まで業績を伸ばしていた消費者金融系の業者は軒並み業績を落とし、
中には法的整理に入ったり、廃業した会社もありました。

4.過払い金は今もあるのか?
そんな過払いバブルも終わり10年近くが過ぎました。
聞いた話では、債務整理系の相談は一頃に比べてめっきりと減ったそうです。
かつては、消費者金融系の利息の高い業者の債務については
利息制限法への引き直し計算をして過払い金があれば、
それを返還してもらって
他の残債務が残っている所への支払に充てるという任意整理が可能でした。
破産する場合にも、過払い金があるのか調べた上で
破産申立を検討して申立を行う運用がなされていました。
ですが、利息そのものが引き下げられた現在では、
そもそも過払という問題は起こりえず、
破産のような法的整理に至るケースが多いのではないかと感じます。
そして、過払い債権が仮にあったとしても、
時効と共に消えていくのでしょう。

5.終わりに
以前、債務整理をしている司法書士の先生から
債務整理とは生活の再建と聞きました。
過払い金は大事ですが、
それ以上に大事なのは家計簿を付けるなどして日頃の収支を自分で把握する、
身の丈にあった生活をすることなのだと力説しておられました。
これは個人だけでなく、
事業の再建に勤しむビジネスパーソンにも当てはまる言葉だと思います。
2020年を覆うコロナのような予見しがたいものであればともかく、
事業の会計のずさんさが原因で運営が苦しいのであれば、
数字を把握することが何よりも大切だと感じます。
余談ですが、この10数年、業界の栄枯盛衰を見てきたような気がしました。

ブラックリストとは

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1.はじめに
「金は天下の回りもの」とは、よく耳にする言葉です。
ただお金を貯めるのではなく、うまくお金を使うことで増えるのは事実でしょう。
借金というと後ろめたさがありますが、
借入もうまく使うことでお金を増やすことになるようです。
節税効果を生むのも、その理由の一つなのかもしれません。
ところが借金があまりにも増えてくると、事情が変わってきます。
そのときに頭をよぎる言葉が破産であったり、
ブラックリストであったりするのかもしれません。
ところで、ブラックリストとはよく聞く言葉ですが、
実際はどのようなものなのでしょうか?
ここでは、ブラックリストについて見ていきたいと思います。

2.信用情報センターとは
よくブラックリストに載るという言葉を耳にします。
ところが、国の台帳にそんなリストはありません。
これは、金融面で考えると信用情報センターのことを指しています。
金融機関には銀行系・クレジット会社系・消費者金融系と
大きく3つの系列がありますが、
その3系統で別々の信用情報センターを有しています。
例えば銀行系であれば全国銀行個人信用情報センター、
クレジット系であれば株式会社シー・アイ・シー、
消費者金融系であれば株式会社日本信用情報機構が、
各業種ごとの個人情報を管理しています。
そこで登録された情報が他の業者も見られるようになっています。
例えばAさんが借入の申込みをしたけれど、
他の金融機関で融資は受けていないのか?、
あるいは他の金融機関で長期の延滞をしていないのかなどを
審査の過程で調べるのです。
ですから甲銀行で借入したけれど、
乙銀行で借入してもバレないという状態にはならないのです。
なお、この信用情報は個人も開示請求をすることができます。
開示するための申請書をダウンロードして、
手数料と本人確認書類のコピーを取って郵送で請求するのが一般的です。
特に債務整理といった場面では、
どこから借入をしたのかわからない、
以前にどこで借りていたのかもわからないという事態が起こりえます。
そのような場合は手数料等がかかりますが、
この信用情報センターで情報開示をして
過去と現況を把握するのが一つの方法といえます。

3.ブラックリストとは
では、ブラックリストとはどのように表示されるのでしょうか?
通常はAさんに借入があり、それが返済されて終わります。
借入だけでなく返済という事実も、この信用情報には記録されます。
ところが、何かの事情で支払が遅れるようになり、
それも長期延滞に入ったような場合や
支払が厳しくて弁護士・司法書士等の介入で
債務整理手続に入ったような場合は、
事故扱いになります。
これがいわゆる「ブラックリストに載る」ということです。
この事故情報は銀行からしか借入していないから
信販系から借入してもバレないとはなりません。
どの系統にも反映されますから、
新たに借入をすることは不可能と思った方がいいでしょう。
なお、延滞とは言っても数日程度の遅れでは長期延滞扱いとはなりません。
延滞が続いて債権管理部に異動したような場合は、
信用情報上は長期延滞と扱われているようです。

4.事故として載ってしまうと
では、信用情報上、事故扱いを受けた場合はどうなるのでしょうか?
先ほども書きましたが、まず新規の融資は受けられません。
住宅購入に際して、ローン申込みをしても断られてしまいます。
また長期延滞・破産などの法的整理について言えることですが、
一度ブラックリストに載った場合は、
5年~10年はそこに載り続けることになります。
その情報はセンターに登録している業者が閲覧することができるのですが、
中にはその情報を悪用して
ヤミ金などのDMを送りつけてくる所もあると耳にしました。
そのようなDMは地獄への一本道です。
手を付けないようにしてください。

5.法人の代表者が事故扱いの場合
先日、会社の代表者が銀行融資を断られたと相談がありました。
どうも聞いていると代表者自身の若い頃の借入を
何らかの事情で返済を忘れてしまい、
それが長期延滞として信用情報センターに登録されているようでした。
本来、法人と個人は別の主体となるのですが、
ここでは一体として考えるのでしょう。
慌てて時効の援用もせずに返済を済ませ、
再び申込みをしに行ったそうですが、結果はどうなのでしょうか。