根保証とは

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1.保証人になる発端は
債務整理をする際に、専門家は必ずその原因を依頼者から聴取します。
また破産申立をする場合も、その原因を記載する箇所があります。
債務超過となる、債務整理をする、
その原因の一つが保証人になっていたという事実です。
保証人とは法文上は、借主である主たる債務者の支払が滞ったときに
支払義務を負う立場にあるのですが、
実務上は主債務者の支払や資力に関係なく請求を受ける立場にある、
連帯保証であることがほとんどです
仲のいい友人や親族に頼まれて断り切れずに保証人になったと
情に流されてしまいやすいのが、この保証の持つ危うさです

 

2.根保証とは
では、時々目にする「根保証」とはどのようなものなのでしょうか?
ここでは根保証について見ていきます。
保証とは、借主である主債務者が払えなくなった場合に
支払う義務があることは先ほど述べました。
そして、ここで想定されているものは、1回切りの契約です。
例えば100万円を借りる金銭消費貸借契約を締結して、
その保証人になった場合は100万円を債権者に弁済すれば、
そこで保証人の義務を果たしたことになります。
ところが、契約の中には1度の弁済等では終了しないものがあります
例えば家を借りる賃貸借契約では賃料を一度支払えば終了するものではありません
このような時に出てくるのが根保証契約というものです。
主に一定の期間、継続的に債権債務が発生するような場合に出てくるものです

 

3.法改正で根保証人保護の規定が設けられました
この根保証人になると、債権者としては1度の弁済だけでなく
継続的に担保権を持ち続けることになるので、
債権回収の観点からは一安心です。
ただ根保証人側から見ると、自分の弁済義務は一体いつまで続くのか、
そしてどれだけ払わなければならないのかがわかりませんので、
立場としては不安定なものとなります。
かつて商工ローンが世間を賑わせたも、保証人の意思に関わりなく、
重い根保証人の立場になっていた点が大きな問題となりました
そこで、保証契約や根保証契約について法改正が相次ぎます。
まず①保証契約は必ず書面ですることが求められ、
②2020年の債権法改正では必ず限度額(「極度額」という)を
決めることが法文化されました。
更に③個人貸金の根保証契約の場合には
一定の期間で元本が確定する旨の規定が設けられました
逆に考えると、かつては根保証は口約束でもよかった、
限度額も期間も何も法令上の規制がなかったということになります。

 

4.どうしても根保証人になる場合は
保証人、とりわけ根保証人は重い義務を伴います。
ならないに越したことはないのですが、
時と場合によってはならざるを得ない場合が出てくるかもしれません。
そのときには必ず極度額と期間(元本確定期日)を確かめるようにして下さい。
もし最初の借り入れがわずかな金額でも極度額が大きければ、
それだけ多くの借入が発生し、重い返済義務を負う可能性が高いからです
気をつけて下さい。

会社分割と詐害行為

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1.会社を建て直す方法を考える
会社が倒産すると、多くの関係者に影響が及びます。
場合によっては連鎖倒産という事態も起こることでしょう。
倒産の最たるものが法人格の消滅する破産ですが、
その他の民事再生や会社更生法の適用をとっても、
法的整理に入った以上は影響が多方面に及びます。
そのような事態にならないように、
当事者は色んな知恵を出して会社の再建を行っていきます。
他の会社と合併する場合もあるでしょう
しかし、債務の多い会社と合併するのは、かなりリスキーです
そして現実的に債務超過の会社との合併は、ほとんどないでしょう。
このような場合に取り得る方法の一つが会社分割です
それでは会社分割とはどのようなものなのか、
ここでは会社分割と詐害行為について見ていきます。

 

2.会社分割とは
会社は多くの事業を営んでいることが普通です。
例えばレストランを経営している部門もあれば、
不動産の賃貸をする部門があるなど、
それらを総合して収益を上げているのが実情です。
ただ多くの事業を展開する中で、
利益を上げている所もあれば採算がとれていないところもあります。
事業のリストラクチャー(再構築)をする際に、
その不採算部門をどうするかが大きな鍵となります。
会社分割とは企業を合併のように包括的に他の企業に移転させるのではなく、
一つの部門を新しい法人に移したり、
または他の企業に譲渡するなど、会社の事業を分ける制度であります
これを使って不採算部門を切り離し、
利益の出ている所に会社の持つ資源を集中させることができます

 

3.会社分割の手続
会社分割には新会社を設立して事業を移す新設分割と、
他の会社に事業を譲渡する吸収分割がありますが、
概ね契約書(新設分割の場合は計画書)を作成し、
株主総会での承認、債権者の保護手続、書類の備置、
株主への通知などの手続を経て

登記を行うという流れを取ります

 

3-1 会社債権者を置き去りにしてませんか? 
この方法をとると、
利益の出ている部門は新会社か他の会社に移転させられる反面、
いわゆる赤字部門を残して清算させることが可能になります。
それでは会社債権者としてはたまったものではありません、
このような場合、会社の債権者は詐害行為として
会社分割そのものを取り消すことは可能でしょうか

 

3-2 会社分割の詐害行為性の判断
この点については、個々の事情によって判断されます
会社分割はその手続の中で債権者保護手続を踏まなければいけません。
ただ一定の場合には債権者の保護手続が不要になる場合があり、
全体的にみて債権者の権利を著しく侵害しているような場合であれば
詐害行為として認定される可能性が高くなります
会社分割は事業の再建をしていく上では有用な制度ではありますが、
露骨な方法で負債を取り除こうとすると
後々で否定される可能性は否定できません。

 

4.終わりに
ここまで会社分割と詐害行為について見てきました。
再建を考えると、どうしてもマイナス面を切り離したいところですが、
性急なやり方は危険を伴います。
リスクを考えながら再建策を考えていきたいものです。

相続人不存在の手続き

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1.相続人不存在とは
相続人となるのは配偶者、子供、直系尊属、兄弟姉妹やその代襲者ですが、被相続人にそのような者がいない場合があります。
または相続人となる者は存在しているのですが、相続放棄をした結果として相続人が不存在となる場合があります。
ここでは相続人が不存在となった場合の手続きについて見ていきます。

2.相続財産管理人の申立
相続人は誰か、それは戸籍等で調査をすることになります。
その過程で相続人がいない、またはいても相続放棄をしている場合は家庭裁判所に相続財産管理人選任の申し立てを行います。
申立権者は利害関係人または検察官となっています。
利害関係人の具体例としては債権者や被相続人の財産管理等をしていた後見人などが挙げられるでしょう。
申立の段階で必要書類を提出し、予納金を納めます。
予納金の額はケースバイケースですが、100万円以下となることが多いです。
この予納金の中に官報公告費用や相続財産管理人の報酬が含まれています。
また相続財産管理人は、たいてい弁護士が就任します。

3.管理人選任後の手続きの流れ
相続財産管理人が選任されますと、2回官報公告を行って相続債権者への債権申出等を進めます。
その後、3回目の公告で相続人探索の公告を行います。
1回目の公告は2ヶ月、2回目の公告は2ヶ月、3回目の公告は6ヶ月の期間を要しますので、この段階で3回の公告と10ヶ月の期間が必要となります。
それが終わると特別縁故者の公告が行われます。
特別縁故者とは法定相続人ではないけれど、被相続人の療養看護をしていたり生計を共にしていた者のことを言います。
内縁関係にあったような場合が、この特別縁故者に当てはまります。
この申出の期間は3ヶ月です。
これらの一連の手続きが終わり、誰も申出を行わなかった場合には国庫へ帰属する形になります。

4.共有不動産はどうなるか
もし財産、例えば不動産が共有になっていて、共有者の一方が死亡し相続人が不存在であった場合は、一連の手続きを経て「特別縁故者不存在確定」という登記原因で持分移転登記を行います。
被相続人が死亡した時点で直ちに持分移転登記ができるわけではありません。

5.遺言という方法
このように、相続人不存在になるような場合は13ヶ月という期間を要し、予納金も高額になります。
被相続人に法定相続人が居らず、または居たとしても誰か他の人(例えば、内縁関係にある人)に財産を引き継ぎたいような場合は、遺言を作成する方が妥当かと思います。

6.終わりに
ここまで、相続人不存在の手続きについて見てきました。
相続人がいるのか判然としないケースは、相続関係に複雑な事情の絡んだ場合が多く見られます。
また簡単に処分できない不動産があるなどして対応が難しい場合もあります。
弁護士に相談して交渉や手続きを進めていく方が、手続きは順調に進んでいくものと思われます。

信託と遺留分

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1.はじめに
近年、信託がちょっとしたブームになっています。
信託というと投資信託のイメージがつきまといますが、ここでいう信託は家族信託のことを言います。
新しい財産管理の手法として近年注目されています。

2.信託とは
信託とは一定の財産を委託者が受託者に託し、そこで得た利益等を受益者に渡すというものです。
典型的なケースでは受託者が資産運用を行って受益者に利益を渡す方法になりますが、委託者から託された財産をただ預かっていて定期的に一定の財産を受益者に渡すような方法も信託に含まれます。
このような投資とは一線を画して家族間などで設計されたものを家族信託と言います。
例えば障害のある子供の将来に備えて受託者に財産を託し、定期的に受託者からその子供に財産を給付するようなものです。
親なき後の信託とも言います。
なお、信託には委託者・受託者・受益者と3者の存在が必要になりますが、委託者と受益者は同一でも構いません。

3.受益者連続信託
この信託で特徴的なものが受益者連続信託です。
これは第一受益者をA、A死亡後の第二受益者はBなどと、信託設計の段階で受益者を指定することができるのです。
信託された時から30年を経過したときは、受益権の新たな承継は1度だけ認められるという期間的な制約はありますが、受益者を連続して指定できるのがこの信託の大きなメリットとも言えます。
同じような制度に遺言がありますが、遺言は受遺者Aを指定することは可能でも、A死亡後の2回目の受遺者を指定することはできません。
遺言者より先にAが死亡した場合の受遺者は決められます。ここでは遺言者の死亡→A死亡のような場合です)

4.遺留分
他方、相続には遺留分という制度があります。
遺留分は相続人の最低限の相続分を保証した制度で、遺留分を侵害する贈与や遺贈があった場合は、相続人が遺留分減殺請求権を行使して、侵害された遺留分に見合う金額を請求できる権利です。
それでは、遺留分を侵害するような信託行為がなされていた場合、遺留分減殺請求権の行使は可能なのでしょうか?

5.信託と遺留分
この点については2018年に判例が出ており、信託がなされていても遺留分減殺請求の対象となり、遺留分を回避するように設計された信託契約は公序良俗に反し無効であるとしています。
本事件は控訴されてその後に和解していますが、争いのあるところであり、相続人の遺留分を侵害するような信託には注意したいところです。

6.終わりに
信託契約は契約を作成する者にイニシアチブがあります。

その方法が理想的な財産の承継なのかもしれませんが、他方で相続人の遺留分を侵害するような形態になっているのであれば、後々否定されるリスクがあります。
そのような場合に備えて、遺留分を確保した信託契約、受益者連続信託の制度を使った方法で契約を作り込むのが妥当と言えるでしょう。

使い道の定まらない不動産を相続した場合

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1.はじめに
相続とは一切の権利義務を承継する制度です。
これはいるけど、あれはいらないという注文は遺産分割協議で相続人全員の合意がない限りはできません。
また知っている知らないに関わらず、遺産を承継します。
もし相続人が1人であるならば、遺産分割という概念は発生しませんから、その全てを背負うことになるのです。
それがたとえ遠方にある不動産であってもです。
ここでは、被相続人が所有していた遠方の不動産、または使い道の決まっていない不動産を引き継いだ場合を見ていきましょう。

2.農地や山林を相続した場合
まず相続した不動産が農地や山林であった場合について見ていきます。
農地や山林を相続した場合は、相続登記と同時に不動産所在地の市役所等に相続に伴う届け出を提出します。
各自治体によって必要書類が違う場合がありますので、必要書類を確認してから提出します。
なお、この届け出を提出しない場合は過料に処せられます。

3.使用方法の決まってない不動産を相続した場合
続いて、相続した不動産について見ていきます。
今後も使い道が決まっている不動産であれば、その通りに使用していくことになります。
他方、使い道が決まっていない不動産は早めに処分する方が無難です。
第三者に賃借や売却したり、あるい相続した不動産が空き家である場合は解体するなどです。
何故かというと、相続した不動産が放置状態であれば雑草等が生い茂り、近隣に迷惑が及びます。
空き家であれば倒壊して近隣や通行人に損害が発生する蓋然性が高まります。
損害賠償請求や妨害排除の訴えといった訴訟リスクを抑えるために、早めに策を打つのです。
所有者には無過失責任があり、損害賠償請求等を受けた場合は厳しい立場に立たされることが多いのが大きな理由です。


4.不動産の国庫帰属制度
近年は相続登記の未了問題が社会問題として表面化し、誰が所有者かわからない不動産が増加しています。
このような情勢を受けて、相続登記の義務化と相続により取得した不動産の国庫帰属制度が法改正を経て導入されようとしています。
2023年の4月頃に施行されるのでは、と思われます。
ただ不要な不動産を国が全て受け容れてくれるわけではありません。
土地が帰属対象となりますが、その土地に担保がない、建物がない、土壌が汚染されてないなどいくつかの要件をクリアする必要があります。
実際のところ相続人不存在で被相続人に不動産があった場合でも、そのまま国庫に帰属することは少ないです。
多くは換価してその金銭が国庫に帰属する形が多くなっています。
他の制度のそのような運用方針から考えると、制度はできても不要な不動産の国庫への帰属は中々ハードルが高いのではないかと思われます。

5.終わりに
ここまで相続した不動産について見てきました。

新しい制度の運用が近々スタートしますが、それで問題が解決するとは思えません。
訴訟リスクを抑えるためにも、用途の決まってない不動産を早く処分するのが王道ではないかと思います。

株式の相続・議決権の観点から

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1.はじめに
相続とは、被相続人の所有していた債権債務の一切を引き継ぐ包括承継の一種です。
その中には現金や不動産だけでなく、株式も含まれます。
前回、誰が所有者かわからない所在不明株主の問題を紹介しました。
今回は株式を相続した場合の議決権について述べたいと思います。

 
2.株式を相続した場合
例えば、株式を100%保有しているオーナー株主が亡くなった場合を想定してみましょう。
この場合、株主総会を開こうにも株主が定まっていないため、何も議決できないという事態が起こります。
ところで先ほど株式も相続の対象になるとお伝えしました。
相続分は法律で定まっているので、その相続分に則って株式も受け継がれると考えられます。
そうすると配偶者と子供で50%ずつ相続した場合は、その割合に従って株式も相続されて議決権を行使できるように思われます。
しかし、遺産分割等で最終的に株主が決まらない限り、法定相続分の割合で議決権を行使することはできません。
株式は不可分債権で、その不可分なものを相続の段階で準共有していることになるので、未だ完全な状態とは言えないからです。

3.会社への通知
そうすると遺産分割協議が終わらない限り、株主として議決権を行使できない、株主総会で何も決められないように思われるでしょう。
このような場合に備えて会社法では、株主に相続が発生した場合は、相続人の過半数で議決権行使者を決定して会社に通知することを認めています。
最終的な株主の決定には時間がかかりそうな場合でも、当面は行使者を決めておくことで何も決められない事態を回避できることになります。
先ほどの例では配偶者と子供の過半数で議決権を行使する者を決めておけば、その者が総会に出席して対応する形になります。
また、この議決権行使者は株主側から会社に通知するケースが多いのですが、会社側から議決権を行使する者を認めることもできます。
ただし、この場合には民法の共有の規定に従って決められた者でない場合は議決権行使者にはなりませんので、安易な同意には注意したいところです。

4.議決権行使者を決められない場合 
このように議決権行使者を相続人の過半数で決める方法があるとしても、過半数の同意が得られない場合もありうるでしょう。
例えば、被相続人に子供が複数いて、仲が悪くて過半数の同意を得にくい場合です。
このような場合で仮に会社が同意を与えても有効な決議があったとは言いにくくなります。
もし株主が亡くなって議決権の行使すらままならない事態が起こりそうな場合は、遺言で株式の帰属者を決めておくのも方法です。
遺言は遺産分割より優先しますので、相続が発生した場合は株式が受遺者に受け継がれることになります。

5.終わりに 
ここまで株主に相続が発生した場合に議決権はどうなるのかについて見てきました。
100%オーナー株主は珍しくないのですが、相続が発生すると株主総会で何も決められない事態が起こりえます。
そのときに備えて策を打つことが紛争の予防にもつながるでしょう。

相続に伴う株主リスク

株主が誰であるか、それは会社にある株主名簿や、税理士が作成する別表2という書類を見ればわかります。
その株式も財産ですから、他の財産と同じように相続の対象になります。
とすると、相続を繰り返して細分化してる場合があります。
下手をすると誰が株主かわからない場合も起こりえます。
そうなると会社の運営はどうなるのでしょうか?
ここでは、株主に相続が発生した場合のリスクについて述べていきます。

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1.株主の権利

株式には色々な権利があります。
もっとも代表的なものは会社から配当を受ける権利、そして株主総会で意見を表明できる議決権です。
その権利を実現するために、株主には計算書類等の閲覧請求権や会社に対して訴訟を起こす権利も有しています。
株主に相続が発生すると会社に対して名義書換手続きをするなど諸々の手続きが必要となります。
他方で、経営陣にとっては何者かわからない人が会社の運営に口をはさむリスクを背負うことになります。


2.訴えを起こされた場合

もし株主総会決議取消の訴えや株主総会不存在確認の訴えが起こされたらどうなるのでしょうか?
これらは株主総会の招集手続きが定款や法令に違反していたり、決議した内容が法令に違反していたような場合に起こる訴訟です。
このような場合は原告である株主に担保提供を求めて濫訴を防いだり、決議取消の訴えの場合には裁量棄却を求めるなどの方法になるのでしょう。

 

3.株主の対策

こうならないようにするために会社設立時から株主対策をしておく必要があります。
具体的には、定款に株式買取請求の条項を設ける、または取得条項付き株式を発行するなどの方法です。

例えば、定款に
(相続人等に対する株式の売渡請求)
第○条 当会社は、相続その他の一般承継により当会社の株式を取得した者に対し、当該株式を当会社に売り渡すことを請求することができる。
2 前項に定める売渡請求に係る事項は、株主総会がこれを定める。

などの条項を盛り込んでおきます。
株式譲渡制限のある会社でも、相続の場合には相続人への株式移転を拒むことはできません。
そのような場合に備えて買取条項を用意しておきます。
また相続が発生した場合に株式を買い取るという内容の株式を発行していた場合は、上記定款の定めと同じ効果を得られます。

 

4.会社関係訴訟の相談は弁護士へ

もし株主から訴えられたら、どうすればいいのでしょうか?
この場合は弁護士に相談してください。
司法書士にも簡易裁判所での訴訟代理権はありますが、会社関係の訴訟は地方裁判所の専属管轄になります。
内容も株式の評価や相続など複雑に論点が絡んでいる場合が多いので、専門的な判断が必要です。
弁護士はそのような場合の専門家ですので、もし知らない株主から会社関係の訴訟を訴えられたら弁護士に相談してください。

 

5.終わりに

ここまで株主が相続した場合について見てきました。
株主に相続が発生すると、何も決議できない状態に陥ったり、争いにつながる場合があります。
特に平成2年(1990年)以前の会社は、設立時に7人の発起人が必要となっていました。
この発起人達に相続が発生し、株主の把握が難しくなる場合が今より高いといえます。
株主対策は事業が健全に動いているときこそ、講じる策だと思います。

法定相続情報証明とは

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1.はじめに
相続の手続きを進めるには、戸籍を集めなければなりません。
被相続人の死亡から出生まで遡りますので、何通にもなることが多いです。
しかも、手続きの中には3ヶ月以内と期限があるものもあり、同じものを何回も取らなければならない場合もあります。
生まれてから亡くなるまで、本籍地が同じ所であれば、負担も少ないですが、本籍地を転々としている場合は、全てを集めないといけませんので負担も大きくなります。
そのような場合に便利なのが、法務局で発行してくれる法定相続情報証明というものです。
別名、一覧図とも言います。
ここでは法定相続情報証明について見ていきます。


2.法定相続情報証明とは
法定相続情報証明は法務局に申請して作成してもらいます。
具体的には必要書類を収集して、相続関係図を作成して法務局に申請します。
その図に法務局が認証印を押印します。

■必要書類
必ず用意する書類
・被相続人の戸籍謄本等(出生~亡くなるまで)
 戸籍・除籍・原戸籍とありますが、戸籍等としています。
・被相続人の住民票の除票
・相続人の戸籍謄本(又は抄本)
・申出人の住所氏名がわかる公的書類(運転免許証等)

必要となる場合がある書類
・相続人の住民票
・専門家に頼む場合は委任状

■法定相続情報証明の管轄
法定相続情報証明はどこの法務局に申請してもいいわけではありません。
管轄があり、その法務局で申請します。

・被相続人の本籍地
・被相続人の最後の住所地
・申出人の住所地
・被相続人名義の不動産の所在地
 
■手数料
法務局に申請する費用は無料です。
法定相続情報証明の通数も、何通請求しても無料です。
専門家に依頼する場合は、その手数料が必要です。

■再交付
法定相続情報証明は、再交付ができます。
申請した法務局に再交付の申し出をすると、必要な枚数だけ発行してもらえます。
費用は無料です。
ただ法定相続情報証明を申請した人(申出人)しか再交付の申請はできません。
再交付のときには申出人の本人確認書類が必要です。
なお、再交付の期間は申し出の翌年から5年です。

 

3.こんなとき
①相続人が複数いる場合
相続人が複数人いる場合は、1人で申請をすることも可能ですが、後々再交付の場合も考えて複数人で申請しておいた方がいいでしょう。
申出人が1人だけですと、その人しか再交付できないからです。

②どこで使える?
法定相続情報証明は戸籍の束の代わりとなるものです。
使える所は金融機関、法務局、税務署等です。
令和2年10月から年金の手続きでも利用できるようになりました。
これらの所で相続手続きをする場合に戸籍の代わりに使用することができます。
ただ金融機関の中には、この書類を認めていないところもありますので、事前に確認してください。

 

4.注意点
①図の中に相続人の住所がない場合は、実際の相続手続きで住民票を求められます。
法務局の手続きでは相続人の住所の表記は任意ですが、必ず相続人の住所は入れるようにしましょう。
②税務申告の場合は、実子か養子など続柄を記載しておく必要があります
「子」では認められません。
③遺産を実際に誰が取得するのかを決めるのは遺産分割協議書等の書類です。
遺産分けの手続きには別途、これらの書類が必要です。

 

5.終わりに
ここまで法定相続情報証明について見てきました。
何度も同じ書類を役所で取る手間を考えると、便利なツールと言えます。
相続手続きの負担軽減の一助になるでしょう。