1.はじめに
1990年代後半はテレビや電車の中の広告で、
消費者金融系の広告を見ない日はありませんでした。
それが2010年前後になると消費者金融系の広告から
司法書士事務所や法律事務所のものばかりになりました。
司法書士というと土地や建物の名義変更というイメージが強かったのですが、
当時は債務整理もやっているという印象を強く世に与えました。
その当時は過払い金の返還が業界内でのトレンドだったのでしょうか。
実際、その時期に司法書士事務所で勤務していたのですが、
過払関係の相談が多かったと実感しています。
それでは、2010年前後までよく耳にした過払金とはどのようなものなのか、
そして今も未だあるのかについて見ていきます。
2.消費者金融を取り巻く法制度
まず過払い金の話をする前に、
90年代後半の法制度について簡単に見ていきます。
お金の貸し借りの契約を金銭消費貸借契約といいます。
そして消費者金融を取り巻く法律には
利息制限法・貸金業規制法・出資法という法律があります。
利息制限法では
10万円未満 20%
10万円以上100万円未満 18%
100万円以上 15%
と利息の上限が定められていましたが、
他方で当時の出資法には年40,004%を越えると
刑事罰を科すという規定がありました。
その頃の消費者金融の利息は20%台後半が多かったのですが、
この利息制限法と出資法の狭間を業界ではグレーゾーンと呼んでいました。
本来であれば利息制限法違反なのですが、
貸金業規制法が定める一定の要件を充たせば
その利息を取っても問題にはならないという定めがあったのです。
1990年代後半は銀行の自己資本比率を上げるための
貸し渋り・貸し剥がしがあり、
融資を受けたい人の受け皿となっていたのが
消費者金融や商工系のローン会社でした。
これらは銀行のように不動産を担保に取らず、保証人をつけたり、
または無担保無保証で融資をしていたので、
業績を伸ばし続けていたのです。
3.2006年の判決以降の流れ
ところが2006年の最高裁判決で、
上述のみなし弁済を貸金業者側が主張する余地はほぼなくなりました。
高い金利で払い続けていたものを利息制限法の利率で引き直すと、
利息どころか元本まで既に払い終わっていて
逆に借主側に返してもらう権利が発生している、
これがいわゆる「過払い金の返還」ということです。
2006年以降は、
消費者金融など利息の高い所から借入した人が
逆に払いすぎていたお金を返してもらうという事態が発生しました。
今まで業績を伸ばしていた消費者金融系の業者は軒並み業績を落とし、
中には法的整理に入ったり、廃業した会社もありました。
4.過払い金は今もあるのか?
そんな過払いバブルも終わり10年近くが過ぎました。
聞いた話では、債務整理系の相談は一頃に比べてめっきりと減ったそうです。
かつては、消費者金融系の利息の高い業者の債務については
利息制限法への引き直し計算をして過払い金があれば、
それを返還してもらって
他の残債務が残っている所への支払に充てるという任意整理が可能でした。
破産する場合にも、過払い金があるのか調べた上で
破産申立を検討して申立を行う運用がなされていました。
ですが、利息そのものが引き下げられた現在では、
そもそも過払という問題は起こりえず、
破産のような法的整理に至るケースが多いのではないかと感じます。
そして、過払い債権が仮にあったとしても、
時効と共に消えていくのでしょう。
5.終わりに
以前、債務整理をしている司法書士の先生から
債務整理とは生活の再建と聞きました。
過払い金は大事ですが、
それ以上に大事なのは家計簿を付けるなどして日頃の収支を自分で把握する、
身の丈にあった生活をすることなのだと力説しておられました。
これは個人だけでなく、
事業の再建に勤しむビジネスパーソンにも当てはまる言葉だと思います。
2020年を覆うコロナのような予見しがたいものであればともかく、
事業の会計のずさんさが原因で運営が苦しいのであれば、
数字を把握することが何よりも大切だと感じます。
余談ですが、この10数年、業界の栄枯盛衰を見てきたような気がしました。