夜逃げは債務整理となりうるか?

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1.はじめに
小さい頃にテレビゲームをしていた時の話です。
都合が悪くなると、よくリセットボタンを押しました。
そうすると悪夢のような展開が消えてなくなり、スッキリしたものです。
そんな自分も大きくなって税理士事務所に勤めるようになりました。
そして顧問先を訪問すると自宅兼事務所に誰も居ない、
留守かと思いきや、もぬけの殻でした。
最近はあまり聞かなくなりましたが、いわゆる夜逃げです。
夜逃げに至る前には、色々な兆候がありました。
羽振りがいいように見えたのですが、
帳簿をめくると火の車なのが一目瞭然でした、
とにかく負債の部分が大きかったのです。
支払も徐々に遅れが目立ち始め、
いつしかずっと税理士報酬も払ってもらえてない状態が続いたのです。
訪問したのは、いわゆる督促が目的でした。
そのXデーがとうとう来たのかな、と当時は感じたものです。
このような場合に、
追う方の立場になる債権者はどのような行動を取るのでしょうか?
また夜逃げは債務整理の方法になるのか、考えていきます。

2.夜逃げは債務整理のツールか?
このブログで何度か紹介していますが、債務整理にも色々な方法があります。
結果として、債務を抱えている人の負担は減ります。
では、夜逃げはどうなのでしょうか?
確かに、今の状況から逃げることで心理的には落ち着くかもしれません。
債権者からの督促も来なくなり、ホッとした気持ちになるでしょう。
ところで夜逃げして新天地に移ったとしても、
生きていく上では色々なサービスを行政から受ける必要があります。
例えば、子どもがいるのであれば学校に行かせなければなりませんし、
病気や怪我をしたときには医療機関に受診するための保険証が必要になります。
これらの公的サービスを受けるためには住民登録の変更が不可避です。
夜逃げなどの事情があれば、行政の側も事情を汲んではくれるでしょうが、
それはあくまで一時的な話です。
でないと、たちまち生活は行き詰まってしまいます。
債権者は定期的に行方のわからない人の住民票を取るなどして、
行方を捜しています。
もし夜逃げして債権者の追求をかわせたとしても、
住所変更手続をすればたちまち知れ渡り、
夜逃げ前と同じように追求を受けるようになります。
要は時間の問題なのです。

3.人は追い詰められると・・
かつて私の家は裕福な家庭でした。
ですが、社会情勢の変化と、
必要以上に受けていた融資のために歯車が狂い始めました。
父は返済のために色々と動いたのですが、
借りては返しを繰り返して行く中でかえって借金を増やしてしまったのです。
もう自転車操業の状態でした。
そのうち、その「自転車」のペダルも回らなくなってきて、
督促の電話が頻繁に来るようになりました。
後で父から、
「あのとき現実を否定したらどれだけスッキリしたことだろう」と
つぶやいていたのを思い出します。
その「現実を否定」というやり方が、
人によっては自らの命を絶ったり、夜逃げであったりするのでしょう。
でも、あくまでそのような方法は一時的なことであり、
問題の根本的な解決にはならないと悟って債務整理を選択しました。
その結果、先祖代々から所有していた不動産は全部、他人の元に移りました。

4.一瞬だけのリセット
夜逃げはリセットの一つだと思います。
一度はスッキリします。
ですが、テレビゲームと違って、
これからもずっとスッキリできる保証はありません。
リセットは今まで、できていたことも否定することになり、
全部をやり直すことになります。
これを夜逃げに置き換えると、
お金面だけでなく、人としての信用も失う展開になるのです。
仮に夜逃げをしたとしても、
いずれは置き去りにしてきた現実と向き合わなければなりません。

5.結びに代えて
夜逃げをした顧問先も、二重帳簿をつけて現金を持っていたら、
当面はお金に困らないかもしれません。
ですが、それでハッピーエンドにならないのが、この世の中です。
まして今は情報化社会ですから、
どこかで起きた出来事が瞬時に違う所にいても伝わってきます。
そしていずれは居場所を住民登録の変更という形でさらさなければならないのです。
一瞬のスカッとした気持ちの代償は、
あまりにも大きいと言わざるを得ません。