信託と遺留分

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1.はじめに
近年、信託がちょっとしたブームになっています。
信託というと投資信託のイメージがつきまといますが、ここでいう信託は家族信託のことを言います。
新しい財産管理の手法として近年注目されています。

2.信託とは
信託とは一定の財産を委託者が受託者に託し、そこで得た利益等を受益者に渡すというものです。
典型的なケースでは受託者が資産運用を行って受益者に利益を渡す方法になりますが、委託者から託された財産をただ預かっていて定期的に一定の財産を受益者に渡すような方法も信託に含まれます。
このような投資とは一線を画して家族間などで設計されたものを家族信託と言います。
例えば障害のある子供の将来に備えて受託者に財産を託し、定期的に受託者からその子供に財産を給付するようなものです。
親なき後の信託とも言います。
なお、信託には委託者・受託者・受益者と3者の存在が必要になりますが、委託者と受益者は同一でも構いません。

3.受益者連続信託
この信託で特徴的なものが受益者連続信託です。
これは第一受益者をA、A死亡後の第二受益者はBなどと、信託設計の段階で受益者を指定することができるのです。
信託された時から30年を経過したときは、受益権の新たな承継は1度だけ認められるという期間的な制約はありますが、受益者を連続して指定できるのがこの信託の大きなメリットとも言えます。
同じような制度に遺言がありますが、遺言は受遺者Aを指定することは可能でも、A死亡後の2回目の受遺者を指定することはできません。
遺言者より先にAが死亡した場合の受遺者は決められます。ここでは遺言者の死亡→A死亡のような場合です)

4.遺留分
他方、相続には遺留分という制度があります。
遺留分は相続人の最低限の相続分を保証した制度で、遺留分を侵害する贈与や遺贈があった場合は、相続人が遺留分減殺請求権を行使して、侵害された遺留分に見合う金額を請求できる権利です。
それでは、遺留分を侵害するような信託行為がなされていた場合、遺留分減殺請求権の行使は可能なのでしょうか?

5.信託と遺留分
この点については2018年に判例が出ており、信託がなされていても遺留分減殺請求の対象となり、遺留分を回避するように設計された信託契約は公序良俗に反し無効であるとしています。
本事件は控訴されてその後に和解していますが、争いのあるところであり、相続人の遺留分を侵害するような信託には注意したいところです。

6.終わりに
信託契約は契約を作成する者にイニシアチブがあります。

その方法が理想的な財産の承継なのかもしれませんが、他方で相続人の遺留分を侵害するような形態になっているのであれば、後々否定されるリスクがあります。
そのような場合に備えて、遺留分を確保した信託契約、受益者連続信託の制度を使った方法で契約を作り込むのが妥当と言えるでしょう。