債務超過時の処分行為

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1.債務超過とは
債務超過。
自己破産に限らず、債務整理を第三者に委ねる人は、概ねこの状態に陥っています。
借りては返すの負のスパイラルです。
例えば、手形が落ちるのは15日、
残高が不足していると落ちずに不渡りとなってしまうので、
いま不足している分を穴埋めしなければならない、
その不足分は消費者金融から借りて口座に補充しておき、
次のノンバンクの支払日には知人から借りる段取りができているから、
それを回すというように返済に向けて動き回る日々が続きます。
ところが、結局のところは借金をして穴埋めしているだけなので、
借入金額だけが膨らんでいきます。
いわばジャンプし続けている状態なのです。
ですから、いずれこの状態も終焉を迎えます。
借りる所もなくなり万策尽きてしまうのです。
これが債務超過に陥る状態です。

2.債務超過状態での資金の捻出と問題点
ところが、この段階になると借りる方も色々と手立てを打ちます。
生命保険を解約したり、自分の貯金や家族の貯金を取り崩すこともあります。
中には自身の所有する不動産を売却して返済に充てたりする場合もあるでしょう。
また債権者に言われて無償同然で、
不動産や他の財産を譲り渡すこともあるかもしれません。
ここでは、債務超過に陥った段階で
自身の財産を処分した場合の問題点について見ていきたいと思います。

3.債務整理が開始されると
弁護士に債務整理を依頼すると、まず各債権者に債務整理開始通知が発送されます。
その通知が発送された時点で、
債権者から債務者への督促を含めたアプローチが止まります。
そして各債権者から提出される債権届出書などで、
どれだけの債務があるのかを把握していくことになるのです。
他方、債務者の財産もどれだけあるのかを調査していきます。
なぜ、このようなことをするのかと言うと
負債と資産を合わせて返済が可能なのかを検討するためです。
もし財産全てを金銭に換えて返済に充てても不可能という場合であれば、
破産申立に移行することになります。

4-1.債務整理開始前に財産を処分していた場合
ところが、第三者に依頼する前の段階で資産が債務者から抜け出ていたとしましょう。
もし、これが財産隠しであれば論外です。
これを隠して破産申立をすると刑事罰になる可能性があります。
では、債務者所有の財産が債務整理開始直前に、
第三者に渡っていた場合にはどうなるのでしょうか?

4-2 否認されるリスク
この場合、まず債務者から第三者に売買や贈与等で、
所有権が移っていると、他の債権者から、
この売買等を取り消される可能性があります。
債務者から財産を受け取った側に
他の債権者を害するという認識が必要ですが、
処分しても取り消されてしまうリスクがあるのです。
また債務整理から破産申立に移行し、破産管財人が選任されたとしましょう。
破産管財人は破産者の財産を調査し、
もし上記のような破産者の財産処分行為が判明したら
否認権を行使することができます。
この否認権が行使されると
先ほどと同じように債務者の財産処分行為は取り消されます。
このような行為を偏頗(へんぱ)弁済と言うのですが、
破産申立をして最終的に責任を免れる免責決定の出るのが、
遅れる可能性が出てきます。

4-3 スムーズに債務整理を進めるためにも
誰しも自分の作った借金は、人に頼らず自分で処理して収めたいものです。
他人に中々言えないことですから。
しかし、借りては返すような状態になると状況は厳しくなってきます。
まして財産を処分して全てが0になるのであれば問題ないですが、
一時的にすぎないような場合ですと
再び浮かび上がるのは不可能に近い状態です。

傷口をいたずらに広げるよりも、
最小限に損害を抑える方法を、この段階に入ると考えるべきでしょう。

5.破産の登記
ところで、不動産登記簿の謄本を見ると
「所有権移転」などの他に「差押」などが登記されていることがわかります。
以前は所有者が破産すると「破産」という事項が登記されていました。
今でも法人が破産すると履歴事項全部証明書には破産した旨と破産の日時が載ります。
ところが、それは会社の登記簿の話であって、
不動産の登記事項証明書には原則として掲載されません。
破産者所有のものには大抵抵当権や差押えなどの記載があり、
そこまで求めなくてもいいという扱いなのかもしれませんが、
債務超過状態の債務者が、担保のついてない不動産があるのをいいことに
債務超過の事情を知らない第三者に、
担保のない「きれいな」不動産を処分した場合に起こるリスクは
検討しなくていいのか、
そもそも取消権の対象にはならないのかもしれませんが、
破産の登記をすることでリスクを減らせるのではないか、
と毎度疑問に思います。