1.はじめに
小さい頃からの知り合いと、久しぶりに再会しました。
ものすごく几帳面になっていました。
一緒に飲み屋に行ったのですが、1円単位で割り勘をしてくるのです。
あまりの細かさに酔いも醒めそうになりました。
昔からこんなヤツだったかな?、と思っていたのですが、
聞いてみると親の残した借金の返済で生活が苦しく
自然と金銭感覚が細かくなったとの話でした。
友達の親は個人事業主で、
その事業で色々と運転資金を借りて、
未だその残債務が残っているとのことでした。
ところが、色々な所から借金はしてたようですが、
どこからどれくらいの額を借りていたのか、
友達もはっきり知らないのだそうです。
中には請求をしてこない所もあるような印象を受けました。
なお、親は既に他界していて詳細はわかりません。
「それって時効じゃないの?」
僕の頭の中には、その疑問がよぎりました。
時効、色々な所で聞く言葉です。
それでは、時効とはどのようなものなのか、
よく「時効だ!」とは言いますが、
どういう場合が時効なのか?
ここではその点について見ていきます。
2.時効とは?援用とは?
ある権利があったとします。
ところが、権利を持っている人はその権利を中々行使しようとはしません。
他方で、年月が経つと色々な事実が積み重なっていきます。
例えば土地の所有者はいるのに、
別の人がその土地を使っている、
そんな状態が何年にもわたって続いているとすると、
保護するべきなのは真の所有者ではなく、
その土地を使っている人の側になります。
これを永続した事実状態を尊重すべきという観点からのものです。
ただ、真の権利者にも配慮が必要です。
そこで時効の利益を受けたい場合は
真の権利者に対して時効の援用が必要とされているのです。
要は「時効だ、私が権利者だ!」と本当の所有者に主張するのです。
3.消滅時効の場合
時効にも権利を取得する取得時効と権利を失う消滅時効があります。
先ほどの例は典型的な取得時効のケースです。
他方の消滅時効は、主に債権で問題となります。
債権者がいるのに請求してこない、
だから「時効だ」というような場合です。
この消滅時効は従来は10年でした。
商事債権については5年という規定もありました。
そして2020年の債権法改正で
主観的時効は5年(権利が行使できることを知った時から)、
客観的時効は10年(権利が行使できる時から)となりました。
ただし、法改正以前の債権については従来通りの時効が適用されます。
友達のケースでは時期はわかりませんが 、
2020年以前であることは明らかです。
4.時効は時間の経過だけでは決まらない
もっとも時効にかかっているかは時間の経過だけでなく、
相手方や自身の対応によっても変わります。
返済していれば時効にはなりませんし、
返済していなくても
相手方が裁判を起こして強制執行をしていたような場合は、
権利を行使しているといえますので、時効にはなりません。
このような場合は再び振出に戻って時効期間をカウントすることになります。
5.友達のケース
さて、友達の場合はどうなのでしょうか?
請求してきて実際に払っている所は時効の問題は起こりません。
他方で、請求してきてない所で債権者が貸金業であれば、
商事債権として5年で時効にかかっていると言えるでしょう。
裁判所から郵便物等が来たこともないそうです。
貸金業者が請求してこないことがあるのか疑問に思うかもしれませんが、
相続が発生すると相続人が誰なのかわからない場合もあるでしょうし、
取引の古い債権であれば、
利息の払いすぎ状態(いわゆる「過払い」)になっているなどして
請求しにくいという事情も働いてきます。
友達のところはわかりませんが、
「昔の督促状や書類を見て請求してこない所は、
時効にかかってるかもしれないよ。
その場合は内容証明を送ってみたら?」
とアドバイスしました。
その結果、全然見えなかった債務の全容がわかり、
気持ち的に随分落ち着いたようです。
結果として、前ほど、お金にも細かくなくなりました・・・。
6.終わりに
時効、これは援用することで支払が減る場合もあれば、
逆に援用されることで売掛金等を失う場合もあります。
もし事業者であれば、日頃の売掛金などの債権については、
貸金業者ほどではないにしても、
なあなあにせず管理を徹底した方がいいのではと思います。